受贈図書 
関谷由一『万葉集羈旅歌論』(北海道大学出版会)

関谷由一氏よりいただきました。

万葉集羈旅歌論
関谷由一 著

発行:北海道大学出版会
発行日:2021年3月31日
定価:本体7,000円+税
判型:A5判
総ページ数:334
上製
ISBN:978-4-8329-6872-1

北海道大学サイト内での紹介:
https://www.let.hokudai.ac.jp/book/17317


現存する日本最古の和歌集、『万葉集』に載る旅の歌を考察対象とする。表題の「羈旅(きりょ)」とは「旅」の意味で『万葉集』の題詞や標目に既に用いられている漢語であるが、それがどのような内実を担わされているのかを、個々の歌の表現理解に基づき明らかにする。併せて、〈家と旅〉といった、従来の羈旅歌論の前提的枠組みを再検討し、旅の歌の中で「家なる妹」がうたわれることの起源について、一つの見通しを示す。


目次

凡例

はじめに──旅の歌の形成過程とその結果を考える
1 本書を読む前に──万葉集について
2 本書の意図

序章 研究史をたどって──旅の歌の誕生と発想様式
1―1 旅の歌の類型をめぐる先行論(1)──大濱論
1―2 旅の歌の類型をめぐる先行論(2)──伊藤論
1―3 旅の歌の類型をめぐる先行論(3)──神野志論
2 近年の論──羈旅信仰論への疑問
3 残された課題──万葉における「家」や「旅」をどう理解するか
4 万葉人にとっての大和・都を〈故郷〉とみなすことの問題
5 日本の古代和歌における〈公〉と〈私〉
6 本書の構成と問題意識


第一部 旅の歌における「家」と「妹」

第一章 旅の歌における共感関係の淵源──〈留守歌〉考
1 なぜ〈留守歌〉か
2 旅の安全を祈るために詠まれたのか
3 留まる者が「らむ」と思い遣る意味
4 〈留守歌〉における同行希望と羨望の要素
5 〈留守歌〉における讃美的要素
6 おわりに──旅の歌における〈共感関係〉の淵源と展開

第二章 「家」の表現性の再検討──「家もあらなくに」と遍在する「家」
1 「家」=〈家郷〉という把握の問題と、奥麻呂の歌
2 「家もあらなくに」の問題点
3 「家」の表現性の基盤──一定期間住む居宅としての本質とその遍在性
4 「家もあらなくに」は「自分の住む家を離れていること」か
5 おわりに──共有された仮構としての〈家の妹〉

第三章 山上憶良「日本挽歌」の「家」「国内」について
1 当該歌の解釈をめぐる問題
2 長歌と反歌Ⅰの「家」
3 長歌「大君の遠の朝廷としらぬひ筑紫の国に泣く子なす慕ひ来まして」
4 反歌Ⅲ「あをによし 国内ことごと 見せましものを」
5 おわりに

第四章 相聞から望郷へ──巻四・五〇九・五一〇番歌考
1 はじめに
2 当該歌の和歌史的意義と表現の特徴
3 当該長反歌の「妹」は自宅で待つ妻か
4 長歌の表現の問題
5 反歌の理解
6 当該歌における「妹」との別離の意味
7 おわりに


第二部 羈旅歌論

第五章 羈旅歌とは何か──大伴卿傔従等の「悲傷羈旅」歌考
1 はじめに──羈旅歌をどう論じるか
2 大伴卿傔従等の「悲傷羈旅」歌の問題点
3 「悲傷羈旅」歌の解釈
4 〈移動〉の主題化と漢語「羈旅」
5 おわりに──「羈旅」の思いとは如何なるものか

第六章 〈羈旅〉主題化の始発──柿本人麻呂「羈旅歌八首」考
1 はじめに──〈羈旅〉をうたうということ
2 移動表現と「大和島」の表象──Ⅶ歌の解釈
3 〈羈旅〉の多様な局面をうたう──Ⅰ~Ⅴ歌の解釈
4 「家のあたり見ず」とうたうことの意味──Ⅵ、Ⅷ歌の解釈
5 おわりに──人麻呂「羈旅歌八首」の表現史的位置

第七章 高市黒人歌の方法(1)──「棚無小舟」の象徴性
1 黒人歌の「寂寥」をめぐって
2 黒人歌の同時代性──文武朝行幸従駕歌における美景意識との関わり
3 「棚無小舟」の象徴性の検証
4 去り行くものをうたう──送り出す者の視点を借りること

第八章 高市黒人歌の方法(2)──黒人「羈旅歌八首」の同時代性と独自性
1 黒人評の相対化のために
2 八首の描く〈羈旅〉の枠組みとⅦ歌──旅と〈移動〉の焦点化
3 黒人歌の同時代性──黒人歌は〈憂愁〉を主題とするか
4 黒人歌における独自性の片鱗──今・ここを超えて想像を及ぼす
5 おわりに

第九章 部類歌巻における〈羈旅〉像──巻七「羈旅作」考
1 巻七・羈旅作の問題
2 巻七雑歌部における羈旅作の位置──畿外にあること、海との関わり
3 羈旅作全体をどのように見るべきか
4 描かれる〈羈旅〉像──畿外諸国を移動することとその感慨
5 おわりに──巻七・羈旅作の描き出すものとその表現史的位置

終章 旅の歌における「家の妹」と羈旅歌の意義
1 旅の歌と土着の抒情
2 旅の歌における「家」と「妹」の意義
3 羈旅歌の意義
4 その後の羈旅歌
5 本書のおわりに


初出一覧
あとがき
万葉和歌索引
書名索引
人名索引