聞書集考論
西行家集の脱領域研究
宇津木言行 著
2024年11月25日発行
定価:9,350円(10%税込)
A5判・上製・308頁
ISBN:978-4-86803-009-6
西行の真の姿とは。
『聞書集』の総体を論じた待望の研究書。
文学研究に立脚した作品読解を基礎としつつ、歴史・民俗・宗教などさまざまな分野に越境。
『聞書集』を端緒として、西行とその和歌の全体像に多角的視点から迫る。
晩年に編まれた小さな家集を対象とする意図には、西行晩年の和歌と思想を解明する目的と共に、晩年の作品は 当然のことながら彼のそれまでの歌人としての営みのすべてをも背負っているわけであるから、『聞書集』を端緒 として西行とその和歌の全体像を遡及的に逆照射する布石ともなるのではないかという目論見も含めている。
* * *
西行を論じるに当たっては国文学の領域にとどまっていては、その全体像が見えてこない観がある。文学作品の読解を基礎とする国文学の知に基礎を置くのは当然として、国文学の側からの問題提起をも行いながら、できるかぎり歴史・民俗・宗教の学の知へ脱領域して、西行という歌人とその和歌の真の姿に多角的視点から迫ることを本書において試みた。
(「まえがき」より)
宇津木 言行(うつぎ げんこう)
1957年千葉県生まれ。
北海道大学文学部卒、同大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。
愛国学園大学教授、獨協大学特任教授を歴任。
研究分野は中世和歌、中世歌謡。
共著に『山家集/聞書集/残集』(和歌文学大系、明治書院)など、単著に『山家集』(角川ソフィア文庫、KADOKAWA)がある。
まえがき
第一部 聞書集総論
序章 聞書集概説
一 書誌と伝来
二 作品と思想
第一章 聞書集の成立
はじめに
一 聞書集の構成
二 「たはぶれ歌」の詠作時期
三 残集巻頭消息
四 聞書集と御裳濯河歌合の本文異同(推敲)
五 文治二、三年の聞書集・残集受容
おわりに
第二部 聞書集各論
第二章 法華経二十八品歌の達成
はじめに
一 設題と思想の依拠・一 ―山田説批判―
二 設題と思想の依拠・二 ―浄土教と本覚思想―
三 経旨歌からの離脱・一 ―主題と領域―
四 経旨歌からの離脱・二 ―主体的受容と心―
五 成立の時期
おわりに
第三章 十題十首釈教歌 ―歌題句の仏教思想と和歌表現―
はじめに
一 歌題句の偈頌についての主要資料一覧
二 歌題句の典拠と思想的位置
三 詠作時期と西行の仏教思想
四 歌題句と和歌表現
おわりに
第四章 隠者の姿勢 ―「たはぶれ歌」論―
はじめに
一 詠作時期と歌会の場
二 老人と子供の時間
三 隠者の表現
四 幼い悲恋と無用者の意識
おわりに
第五章 西行の聖地「吉野の奥」 ―道教・神仙思想と修験道の習合に注目して―
はじめに
一 西行の「吉野の奥」
二 仙薬「絳雪(紅雪)」の受容 ―漢詩文を中心に―
三 「絳雪(紅雪)」と和歌・連歌
四 「絳雪(紅雪)」と「吉野の奥」 ―道教・神仙思想と修験道―
おわりに
第六章 海賊・山賊の歌
はじめに
一 場
二 経験
三 表現
四 編成
おわりに
第七章 浄土・地獄と和歌 ―「十楽」と「地獄絵を見て」と―
はじめに
一 十楽の歌の背景
二 西行の「十楽」
三 西行の「地獄絵を見て」
四 「地獄絵を見て」前半部
五 「地獄絵を見て」後半部
おわりに
第三部 聞書集を外へひらく
第八章 巫女を詠む西行歌二首 ―「いちこもる」と「いたけもる」と―
はじめに
一 「いちこもる」歌の読解 ―姥神に注目して―
二 「いちこもる」歌の読解 ―「このてがしは」に注目して―
三 「いたけもる」歌の読解 ―初二句と「蝦夷が千島」との関連―
四 「いたけもる」歌の読解 ―山家集配列への目配りから―
おわりに
第九章 中世歌謡と和歌の空間表現 ―境界の表象を焦点に―
はじめに
一 道行きの今様
二 西行の境界に注ぐ眼
おわりに
第十章 西行の社会性 ―檜物工の歌を論じて聞書集に及ぶ―
はじめに
一 山家集の本文校訂
二 「檜物工」について
三 「まさき割る」の解釈
四 聞書集「同じ折節の歌に」
おわりに
付録 聞書集校訂本文
収録論文初出一覧
あとがき
索引