古今集がつなぐ和歌表現史
土佐日記・伊勢物語・源氏物語へ
鈴木宏子 著
9月刊行予定
定価:9,900円(10%税込)
A5判・上製・384頁
ISBN:978-4-86803-023-2
表現研究の新しい方法論
和歌・日記・物語というジャンルを越えて、さまざまな作品を『古今集』に連なる文学として見つめ直す。
表現の根幹である一つひとつの「ことば」を疎かにせず、作品を精密に読む――そのような古典との向き合い方を実践した到達点!
本書の目的は、『古今集』歌の表現の特質を『万葉集』を念頭に置きつつ分析すること、『土佐日記』『伊勢物語』『源氏物語』について和歌を中心に据えて分析・考察し新しい読み方を提示すること、ひるがえって『古今集』という歌集を遠近さまざまな視点から見つめ直してみることである。
(「はじめに ―本書の構成と問題意識―」より)
鈴木 宏子(すずき ひろこ)
1960年 栃木県宇都宮市生まれ
1979年 茨城県立水戸第一高等学校卒業
1983年 お茶の水女子大学文教育学部国文学科卒業
1986年 東京大学大学院人文科学研究科国語国文学専門課程修士課程修了
1991年 東京大学大学院人文科学研究科国語国文学専門課程博士課程単位取得満期退学
1994年 博士(文学)(東京大学)
1995年 千葉大学教育学部講師 同助教授、同准教授を経て
2009年 千葉大学教育学部教授 現在に至る
専攻 平安文学 和歌文学
単著
『古今和歌集表現論』(笠間書院、2000年)
『王朝和歌の想像力―古今集と源氏物語』(笠間書院、2012年、第14回紫式部学術賞受賞)
『「古今和歌集」の創造力』(NHKブックス、2018年、第7回古代歴史文化賞大賞受賞)
共著
『後拾遺和歌集新釈 上・下』(笠間書院、1996年・1997年)
『和歌文学大系18巻 小町集 業平集 遍昭集 素性集 伊勢集 猿丸集』(明治書院、1999年)
『和歌文学大系5巻 古今和歌集』(明治書院、2021年)
共編著
『和歌史を学ぶ人のために』(世界思想社、2011年)
はじめに ―本書の構成と問題意識―
Ⅰ 古今和歌集と紀貫之
一章 古今和歌集から万葉集へ―紀貫之を起点として―
一 本章の課題と方法
二 『古今集』歌人は『万葉集』を読めたのか
三 枕詞「鳴神の」と「音に聞く」
四 「恋ひわたるかな」という類句
五 歌ことば「逢ふこと……」の成立
六 「心情→物象→心情」と切り替わる構造の歌
二章 古今和歌集の羇旅歌について―万葉集からの継承と変化―
一 『古今集』の中の羇旅歌
二 羇旅歌の要件
三 羇旅歌の歌人と構造
四 遣唐使に関わる歌(一)―歴史的背景―
五 遣唐使に関わる歌(二)―表現の力―
六 在原業平の新しさと古さ―「唐衣きつつなれにし妻」―
七 「よみ人知らず」の三首―羇旅歌の空間性―
八 撰者たちの羇旅歌―後世へと継承されるもの―
三章 土佐日記の亡児哀傷と「都へ帰る女」
一 本章の課題と趣旨
二 「女性仮託」について
三 「亡児哀傷」の記事(一)―船出・羽根―
四 「亡児哀傷」の記事(二)―忘れ貝・旅の終わり―
五 『古今集』と『土佐日記』―羇旅歌・業平・「東下り」―
六 『万葉集』に遡る
七 「旅をする女」の誕生
四章 土佐日記の海―〈見立て〉と「月」―
一 『土佐日記』の船旅
二 美しい海―波を見立てる―
三 海の広がり―「入る月」と「出づる月」―
四 海の深さ―〈見立て〉と「映る月」の交響―
五 海の文学史における『土佐日記』
Ⅱ 伊勢物語の世界
五章 伊勢物語の東海道―東下り章段/伊勢斎宮章段―
一 古代の東海道と『伊勢物語』の「東下り」
二 「東下り」を読む(一)―中核をなす九段―
三 「東下り」を読む(二)―そのほかの章段、そして六十九段―
四 「東下り」の背景にあるもの―東国へと向かう想像力―
六章 伊勢物語の「われから」―二条后章段―
一 海の生きもの「われから」
二 「われから」の小文学史―斎宮女御・『源氏物語』・西行法師―
三 『伊勢物語』の女の「われから」
七章 伊勢物語の「小野の雪」―惟喬親王章段―
一 平安京の雪/『古今集』の雪
二 「惟喬親王章段」の春
三 隔てる雪
四 「目離れせぬ雪」
五 包み込む雪
八章 〈距離〉の文学・伊勢物語―芥川そのほか―
一 『伊勢物語』の〈距離〉の広がり
二 「東下り章段」と「伊勢斎宮章段」―東へと延びる〈距離〉―
三 「惟喬親王章段」の南と北
四 〈距離〉を往復する物語―「二条后章段」(一)―
五 「芥川」から摂津章段へ―「二条后章段」(二)―
Ⅲ 源氏物語の和歌
九章 源氏物語の和歌の諸相―三つの観点から―
一 本章の課題
二 作中歌の史的位相(一)―『古今集』を受け継ぐ―
三 作中歌の史的位相(二)―時代の好尚を先取りする―
四 引歌の諸相(一)―心中思惟の中で―
五 引歌の諸相(二)―自然叙述の中で―
六 引歌の諸相(三)―作中人物に伴って―
七 作中歌の機能(一)―贈答歌・独詠歌・唱和歌―
八 作中歌の機能(二)―物語を推し進める力―
十章 独詠歌はどのように詠まれるのか―光源氏の歌を中心に―
一 作中歌の三分類
二 「閉じられた独詠歌」と「開かれた独詠歌」
三 独詠歌を詠む人々
四 光源氏の独詠歌の検討(一)―巻ごとに見る―
五 光源氏の独詠歌の検討(二)―羇旅歌的契機―
十一章 源氏物語の中の古今和歌集―引歌を回路として―
一 『源氏物語』に引かれる『古今集』歌
二 『古今集』からの引歌を概観する
三 引歌となる回数の多い歌とは―普遍的な「こころ」と機智的な「ことば」―
四 哀傷からの引歌―さまざまな悲しみのかたち―
五 春上からの引歌―梅香の引歌は薫に集中する―
十二章 「紫の上の物語」と古今集恋歌
一 『源氏物語』の中の『古今和歌集』
二 『古今集』恋歌の世界
三 恋の始まり―若紫巻の「ほのかに見る」「声を聞きしより」―
四 男君の心変わりを嘆く―明石巻・澪標巻の「煙」―
五 移ろう愛―若菜上巻の「あき」―
六 紫の上と藤壺宮―恋三の欠落を埋めるもの―
Ⅳ 宇治十帖の和歌と物語
十三章 薫が求愛者になるまで―反復する要素と三首の独詠歌―【橋姫巻・椎本巻】
一 薫とともに宇治十帖に分け入る
二 若紫巻・明石巻のプロットの継承
三 反復される四つの要素
四 異界への移動と物語の始まりを告げる独詠歌
五 「山おろしに」の歌の表現
六 彽徊する歌
十四章 薫の恋の「かたち」―「山里のあはれ知らるる」の歌を中心に―【総角巻】
一 本章の課題
二 喪失から恋へ
三 「語りあいたい」という願望
四 擬似的な逢瀬と後朝の歌
五 物語の世界を遡る(一)―夕霧巻・賢木巻―
六 物語の世界を遡る(二)―夕顔巻の「夜明け」―
七 大君の返歌と結婚拒否
十五章 薫と匂宮、それぞれの「道」―照らしあう散文と歌―【総角巻】
一 本章の課題
二 「心もゆかぬ明けぐれの道」―薫の敗北宣言―
三 「露ふかき道の笹原」―匂宮の懇請―
四 「空ゆく月をしたふかな」―物語を照らしかえす歌と散文―
十六章 浮舟物語の和歌―作中歌にあらわれる個性―【東屋巻・浮舟巻】
一 本章の課題
二 薫の独詠歌三首―宿木巻・東屋巻―
三 「宇治橋」の贈答歌―薫と浮舟―
四 「行方知らず」の予感―匂宮と浮舟―
五 雨の日の贈答歌―薫・匂宮・浮舟―
六 「末の松山」―浮舟の歌まなび―
十七章 彽徊する薫/流転する浮舟―物語を推し進める力― 【蜻蛉巻・手習巻・夢浮橋巻】
一 本章の課題
二 蜻蛉巻・手習巻の時間の構造
三 蜻蛉巻・四十九日まで―残された男二人の物語―
四 蜻蛉巻・四十九日以降―薫の新たな物語の可能性―
五 手習巻の秋―中将の求愛がもたらしたもの―
六 浮舟の歌(一)―運命を見つめる―
七 浮舟の歌(二)―幻巻の方法の再現―
八 「袖ふれし人」は誰か
九 浮舟と薫―一周忌を契機として動き出す物語―
十八章 浮舟の最後の歌「尼衣かはれる身にや」の解釈― 「や~む」という語法を中心に―
一 本章の課題と方向性
二 先行研究の整理
三 「かたみに袖をかけて」の再検討
四 係助詞「や」は疑問の意を表わす
五 いわゆる「不望予想」の歌
十九章 歌ことば「あまごろも」について
一 本章の課題
二 手習巻の『竹取物語』引用
三 平安和歌における歌ことば「あまごろも」の検討
四 「あまごろも」は浮舟の最後の衣になるのか
初出一覧
あとがき
和歌初句索引