中世絵画物語論 
小峯和明 著

12月刊行予定
定価:14,300円(10%税込)
A5判・上製・636頁+カラー口絵4頁
ISBN:978-4-86803-031-7

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内容紹介著者紹介目次

物語から絵画が生まれ、また絵画が物語を生み出す相互作用の解析。
著者の絵巻を主とした論考群を大幅に改稿し、新稿3本も加えて、その全貌を俯瞰する。

解説・山本聡美


中世文学を研究する小峯和明にとって、絵巻が、文学研究を拡張するための〈近接領域〉などではなく、むしろはじめから中心に内在化されたテーマであったことが、本書を読むと良く理解できる。中世日本において、言葉と絵は分かちがたく存在し、特に説話は、言葉(文字や声)と絵、そこに介在する人間の身体や儀礼空間もかかわって総合的に生成・享受されていたはずである。しかしながら、近代以降、学問領域の細分化によって文学と美術史学の間には専門の壁が生じてしまった。小峯が研究者としての歩みを始めた一九七〇年代、これを横断することは当たり前の発想ではなかったはずであるが、その英明な思考は、早い時期から「詞書と絵画の往復運動」(本書14頁)を射程におさめ、これを典型的に表出する媒体としての絵巻を研究対象に据えていたのである。
(山本聡美【解説】「〈絵画物語論〉が拓く新しい風景」より)

小峯 和明(こみね かずあき)

1947年生まれ。
日本古典文学、東アジア比較説話専攻。
立教大学名誉教授。
1977年、早稲田大学大学院博士課程単位取得退学
文学博士。

著書:
『世界は説話にみちている 東アジア説話文学論』(岩波書店 2024年)、『予言文学の語る中世─聖徳太子未来記と野馬台詩─』(吉川弘文館 2019年)、『遣唐使と外交神話─『吉備大臣入唐絵巻』を読む─』〈集英社新書〉(集英社 2018年)、『東奔西走─中世文学から世界の回路へ─』(笠間書院 2013年)、『中世法会文芸論』(笠間書院 2009年)、『中世日本の予言書─〈未来記〉を読む─』〈岩波新書〉(岩波書店 2007年)、『院政期文学論』(笠間書院 2005年)、『『野馬台詩』の謎─歴史叙述としての未来記─』(岩波書店 2003年)、『今昔物語集の世界』〈岩波ジュニア新書〉(岩波書店 2002年)、『説話の言説─中世の表現と歴史叙述─』(森話社 2002年)、『説話の森─中世の天狗からイソップまで─』〈岩波現代文庫〉(岩波書店 2001年)、『説話の声─中世世界の語り・うた・笑い─』(新曜社 2000年)、『宇治拾遺物語の表現時空』(若草書房 1999年)、『中世説話の世界を読む』〈岩波セミナーブックス〉(岩波書店 1998年)、『今昔物語集の形成と構造 補訂版』(笠間書院 1993年)

単編著:
『日本と東アジアの〈環境文学〉』(勉誠出版 2023年)、『東アジアの仏伝文学』(勉誠出版 2017年)、『日本文学史』(吉川弘文館 2014年)、『日本文学史 古代・中世編』(ミネルヴァ書房 2013年)、『〈予言文学〉の世界─過去と未来を繋ぐ言説─』〈アジア遊学〉(勉誠出版 2012年)、『東アジアの今昔物語集─翻訳・変成・予言─』(勉誠出版 2012年)、『漢文文化圏の説話世界』〈中世文学と隣接諸学〉(竹林舎 2010年)、『今昔物語集を読む』〈歴史と古典〉(吉川弘文館 2008年)、『『平家物語』の転生と再生』(笠間書院 2003年)、『今昔物語集を学ぶ人のために』(世界思想社 2003年)、『宝鏡寺蔵『妙法天神経解釈』全注釈と研究』(笠間書院 2001年)、『今昔物語集・宇治拾遺物語』〈新潮古典文学アルバム〉(新潮社 1991年)

はじめに

Ⅰ 絵画と物語の磁場

ⅰ 絵巻〈絵画物語〉論
ⅱ 写し・似せ・よそおうもの
ⅲ 写す身体と見る身体──絵巻をひもとくこと
ⅳ 説話と絵画
ⅴ 絵画と儀礼の場 ──〈会〉と〈絵〉の交響

Ⅱ 画中詞と絵解き、絵画の言説

ⅰ 画中詞の宇宙──物語と絵画のはざま
ⅱ 絵巻の画中詞と言説──絵解きの視野から
ⅲ 中世説話と絵解き──仏伝と『道成寺縁起絵巻』から
ⅳ 『うつほ物語』と絵解き
ⅴ 絵解き研究の模索
ⅵ 地獄絵と平安朝の文芸
ⅶ 『古今著聞集』の絵画論
ⅷ 日本中世の肖像とその説話言説をめぐる

Ⅲ 絵巻と物語を読む

ⅰ 『伴大納言絵巻』再論
ⅱ 動物たちの〈楽園〉とその崩壊──『鳥獣戯画』を読む
ⅲ 空飛ぶ童子──『信貴山縁起絵巻』の世界
ⅳ 夢見る人々──『信貴山縁起絵巻』から『石山寺縁起絵巻』『春日権現験記絵』へ
ⅴ 柘榴天神──『天神縁起絵巻』から
ⅵ 『華厳宗祖師絵伝』の創生
ⅶ 『東征伝絵巻』瞥見──海南島の鑑真
ⅷ 『玄奘三蔵絵』を読むために──『大唐西域記』の日本展開、絵巻・説草・類書

Ⅳ 物語の絵画風景

ⅰ フランス語版『酒飯論絵巻』序文
ⅱ 『酒飯論絵巻』言葉の〈饗宴〉
ⅲ 『酒飯論絵巻』イメージの〈饗宴〉
ⅳ 姫の昇天と和歌──『天稚彦物語絵巻』
ⅴ 『宇治拾遺物語絵巻』解説
ⅵ 立教大学図書館蔵『桃太郎絵巻』をめぐる
ⅶ 蝦夷図巻と異文化交流──スペンサー本と立教大本を中心に

Ⅴ 異類と異界の表象

ⅰ 『十二類絵巻』を読む
ⅱ 稲荷山の老狐
ⅲ 『百鬼夜行絵巻』とパロディ
ⅳ スペンサー本『百鬼夜行絵巻』と幕末の『平家物語』──冷泉為恭と遷都の物語
ⅴ 妖怪の博物学
ⅵ 龍宮と冥界
ⅶ 『義経地獄破り』への招待
ⅷ 〈神便鬼毒酒〉を呑む──『酒呑童子』を「酒」から読む
ⅸ 酒呑童子のふるさとを往く

Ⅵ 〈絵画物語〉の回廊

ⅰ チェスター・ビーティー・ライブラリー写本絵巻・絵本総説
ⅱ 〝物語り〟の風景──日本文学から見たチェスター・ビーティー・コレクションの一考察
ⅲ スペンサー・コレクション『反町目録』の再検証──総合目録作成のために
ⅳ 『日本常民生活絵引』の再生──〈絵画物語論〉のために
ⅴ 明治期の絵巻番付をめぐって
ⅵ バイユーのタピスリーと絵巻展──イメージの回廊

 あとがき

【解説】〈絵画物語論〉が拓く新しい風景……山本聡美

 図版引用リスト
 論稿初出リスト
 索引(人名・地名・書名)