古事記[歌と散文]全注釈
居駒永幸 著

2月刊行予定
定価:14,300円(10%税込)
A5判・上製・644頁
ISBN:978-4-86803-032-4
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歌謡ではない。歌である。
古事記に記載されるすべての歌と、その前後の文を注釈。
歌の叙事が起点となって散文が生成されるという理論のもと、文脈から歌を解釈する。
まったく新しい読みの方法による実践成果!
*古事記全文は収録していません。
『古事記』歌謡の注釈はこれまで数多く出版されてきたが、「全注釈」とする書名は半世紀前の土橋寛『古代歌謡全注釈 古事記編』 (1972年、角川書店)以来となる。本書はこの間の研究成果と研究史を踏まえ、『古事記』の111首の歌すべてに注釈を加えたものである。
本書はあくまでも『古事記』の文脈における歌の解釈を目指している。『古事記』の歌にはすべてうたい手である神・人物が明記され、不特定の集団でうたわれる歌謡という認識がない。従って、『古事記』の文脈においては「歌謡」ではなく、「歌」の語を用いる。書名にある[歌と散文]は歌とそれに関わる散文を指し、歌と同等に散文の注釈をも重視している。歌と散文が関係性をもって連続し、一体化している表現形態をここでは括弧付きで[歌と散文]と表記する。
『古事記』の歌とは何か。ひと言で言えば、 宮廷史という叙事を背負った歌である。歌そのものが歴史叙述と言ってもよい。『古事記』の記述によれば、『古事記』の歌は宮廷史を担う宮廷歌謡・歌曲と並行して存在した。その並行状態が、『古事記』が歌によって叙述する宮廷史の権威を示した。歌の叙事と宮廷史の関係は本書の主要な観点の一つである。
『古事記』では歌に関わる散文が簡略で短く、説明的とは言えない。非説明的な関係性が『古事記』の[歌と散文]のあり方である。つまり、[歌と散文]のあいだの表現空間を必要に応じて補いながら読む文体なのである。本書ではこの表現空間の解読に中心を置いている。それは『古事記』の作品世界を細部にわたって解明することにもなる。
この半世紀、『古事記』の歌の研究は、独立歌謡と見なして散文から切り離す方法に対してそれを見直す方向に進んできた。本書では、散文に歌謡がはめ込まれたのではなく、歌の叙事が起点となって散文が叙述されるという考え方に立つ。歌から散文が生成していく動態をそこに見出そうとするのである。従って、本書は『古事記』の歌の注釈だけでなく、[歌と散文]が創り出す表現世界の注釈を目指している。それが書名に[歌と散文]と明記した理由である。
以上述べてきた『古事記』の[歌と散文]に対する基本方針は、居駒永幸『古事記の成立 [歌と散文]の表現史』(2024年、花鳥社)による。それは『古事記』における[歌と散文]の研究成果であるが、本書の個別の注釈にはそこで得られた『古事記』の読みの方法や新解釈を反映させて記述している。両書は研究書と注釈書として互いに支え合う一体の関係にある。
(「はじめに― 『古事記』の歌とは何か」より)
居駒 永幸(いこま ながゆき)
1951(昭和26)年 山形県村山市生まれ。
國學院大學大学院文学研究科博士後期課程単位取得退学。
2021(令和3)年 明治大学教授を定年で退任、現在、明治大学名誉教授。
専門分野 古代日本文学・日本民俗学。
2003(平成15)年 國學院大學より博士(文学)の学位授与。
主な著書
『古代の歌と叙事文芸史』(笠間書院、2003年。志田延義賞受賞)、『東北文芸のフォークロア』(みちのく書房、2006年)、『歌の原初へ 宮古島狩俣の神歌と神話』(おうふう、2014年。連合駿台会学術賞受賞)、『イギリス祭り紀行』(冨山房インターナショナル、2021年)、『ふるさと・みちのくから考える―歌・祭り・未来』(冨山房インターナショナル、2024年)、『古事記の成立 [歌と散文]の表現史』(花鳥社、2024年)
共編著
大久間喜一郎・居駒永幸編『日本書紀[歌]全注釈』(笠間書院、2008年)、原道生・金山秋男・居駒永幸著『古典にみる日本人の生と死』(笠間書院、2013年)、古橋信孝・居駒永幸編『古代歌謡とはなにか』(笠間書院、2015年)、金山秋男編『日本人の魂の古層』(明治大学出版会、2016年)
はじめに――『古事記』の歌とは何か
凡例
上巻
一 出雲神話(6首)
〔1〕須佐之男命の祝婚歌
1 八雲立つ 出雲八重垣
〔2〕八千矛神の神語
ⅰ 沼河比売への求婚
2 八千矛の 神の命は
3 八千矛の 神の命
ⅱ 須勢理毘売の嫉妬と和解
4 ぬばたまの 黒き御衣を
5 八千矛の 神の命や
〔3〕高比売の神名顕わし
6 天なるや 弟棚機の
二 日向神話(2首)
〔4〕豊玉毘売と火遠理命
7 赤玉は 緒さへ光れど
8 沖つ鳥 鴨著く島に
◎『記』神話の[歌と散文]
中巻
三 神武記(13首)
〔5〕神倭伊波礼毘古命の大和平定
ⅰ 宇陀の兄宇迦斯と弟宇迦斯
9 宇陀の 高城に
ⅱ 忍坂の土雲の討伐
10 忍坂の 大室屋に
ⅲ 登美毘古と兄師木・弟師木
11 みつみつし 久米の子らが 粟生には
12 みつみつし 久米の子らが 垣本に
13 神風の 伊勢の海の
14 楯並めて 伊那佐の山の
〔6〕神武天皇と伊須気余理比売
ⅰ 皇后の選定
15 倭の 高佐士野を
16 かつがつも いや前立てる
17 あめ鶺鴒 千鳥ま鵐
18 媛女に 直に逢はむと
ⅱ 求婚と一夜御寝
19 葦原の 穢しき小屋に
〔7〕当藝志美々命の謀反
20 狭井河よ 雲立ち渡り
21 畝火山 昼は雲とゐ
◎神武記の[歌と散文]
四 崇神記(1首)
〔8〕建波邇安王の反乱
22 御真木入日子はや
五 景行記(15首)
〔9〕倭建命の出雲建征討
23 やつめさす 出雲建が
〔10 〕倭建命の東国征討
ⅰ 弟橘比売の入水
24 さねさし 相武の小野に
ⅱ 酒折宮での問答
25 新治 筑波を過ぎて
26 屈靡べて 夜には九夜
ⅲ 美夜受比売との御合
27 ひさかたの 天の香具山
28 高光る 日の御子
ⅳ 尾津の前の一つ松
29 尾張に 直に向かへる
ⅴ 能煩野での望郷歌
30 倭は 国のまほろば
31 命の 全けむ人は
32 はしけやし 我家の方よ
〔11〕倭建命の死
ⅰ 美夜受比売と大刀
33 嬢子の 床の辺に
ⅱ 白鳥翔天と御葬歌
34 なづきの田の 稲幹に
35 浅小竹原 腰なづむ
36 海処行けば 腰なづむ
37 浜つ千鳥 浜よは行かず
◎景行記の[歌と散文]
六 仲哀記(3首)
〔12〕忍熊王の最期
38 いざ吾君 振熊が
〔13〕息長帯日売と建内宿禰命
39 この御酒は 我が御酒ならず
40 この御酒を 醸みけむ人は
◎仲哀記の[歌と散文]
七 応神記(11首)
〔14〕宇遅野での国見
41 千葉の 葛野を見れば
〔15〕矢河枝比売との御合
42 この蟹や 何処の蟹
〔16〕大雀命と髪長比売
43 いざ子ども 野蒜摘みに
44 水溜る 依網の池の
45 道の後 古波陀嬢子を
46 道の後 古波陀嬢子は
〔17〕吉野の国主の奏歌
47 ほむたの 日の御子
48 白檮の生に 横臼を作り
〔18〕須々許理の献酒
49 須々許理が 醸みし御酒に
〔19〕大山守命の反乱
50 ちはやぶる 宇治の渡りに
51 ちはや人 宇治の渡りに
◎応神記の[歌と散文]
下巻
八 仁徳記(23首)
〔20〕石之日売の嫉妬
ⅰ 吉備の黒日売
52 沖方には 小船連らく
ⅱ 淡道島での国見
53 押し照るや 難波の崎よ
ⅲ 黒日売との再会
54 山方に 蒔ける菘菜も
55 倭方に 西風吹き上げて
56 倭方に 行くは誰が夫
ⅳ 石之日売の山代上幸
57 つぎねふや 山代河を 河上り
58 つぎねふや 山代河を 宮上り
ⅴ 舎人鳥山と丸邇臣口子
59 山代に い及け鳥山
60 御諸の その高城なる
61 つぎねふ 山代女の
ⅵ 口子臣と口比売の兄妹
62 山代の 筒木の宮に
ⅶ 天皇と石之日売の和解
63 つぎねふ 山代女の
〔21〕八田若郎女の恋
64 八田の 一本菅は 子持たず
65 八田の 一本菅は 一人居りとも
〔22〕女鳥王と速総別王の反乱
ⅰ 女鳥王の拒絶
66 女鳥の 我が王の
67 高行くや 速総別の
68 雲雀は 天に翔る
ⅱ 恋の逃避行
69 梯立ての 倉椅山を
70 梯立ての 倉椅山は
〔23〕雁の卵の瑞祥
71 たまきはる 内の朝臣
72 高光る 日の御子
73 汝が御子や つびに知らむと
〔24〕枯野という名の船
74 枯野を 塩に焼き
◎仁徳記の[歌と散文]
九 履中記(3首)
〔25〕墨江中王の反乱
75 多遅比野に 寝むと知りせば
76 波邇布坂 我が立ち見れば
77 大坂に 遇ふや少女を
十 允恭記(12首)
〔26〕軽太子と軽大郎女兄妹の悲恋
ⅰ 軽太子の姦通
78 あしひきの 山田を作り
79 小竹葉に 打つや霰の
ⅱ 大前小前宿禰の調停
80 大前 小前宿禰が
81 宮人の 足結の小鈴
ⅲ 軽太子の拘束
82 天だむ 軽の嬢子
83 天だむ 軽嬢子
ⅳ 軽太子の配流
84 天飛ぶ 鳥も使そ
85 大君を 島に放らば
ⅴ 衣通王の恋慕
86 夏草の 阿比泥の浜の
87 君が往き 日長くなりぬ
ⅵ 軽太子と軽大郎女の自死
88 隠りくの 泊瀬の山の
89 隠りくの 泊瀬の河の
◎允恭記の[歌と散文]
十一 雄略記(14首)
〔27〕若日下部王への求婚
90 日下部の 此方の山と
〔28〕赤猪子との婚約と再会
91 御諸の 厳白檮が本
92 引田の 若栗栖原
93 御諸に 築くや玉垣
94 日下江の 入江の蓮
〔29〕吉野の童女
95 呉床居の 神の御手もち
〔30〕阿岐豆野の遊猟
96 み吉野の 袁牟漏が嶽に
〔31〕葛城山の猪
97 やすみしし 我が大君の
〔32〕袁杼比売への求婚
98 媛女の い隠る岡を
〔33〕長谷の豊楽
ⅰ 三重の采女の献歌
99 纏向の 日代の宮は
ⅱ 大后と天皇の唱和
100 倭の この高市に
101 ももしきの 大宮人は
ⅲ 袁杼比売の献酒
102 水そそく 臣の嬢子
103 やすみしし 我が大君の
◎雄略記の[歌と散文]
十二 清寧記(詠・6首)
〔34〕袁祁王の名告りの詠
物部の 我が夫子が
〔35〕袁祁王と平群臣志毘の妻争い
104 大宮の 彼つ端手
105 大匠 拙劣みこそ
106 王の 心を緩み
107 潮瀬の 波折りを見れば
108 王の 王子の柴垣
109 大魚よし 鮪突く海人よ
十三 顕宗記(2首)
〔36〕置目老媼への愛惜
110 浅茅原 小谷を過ぎて
111 置目もや 淡海の置目
◎清寧・顕宗記の「詠」と[歌と散文]
総説
一 『古事記』の歌とその研究史
『古事記』の[歌と散文]とは何か
独立歌謡転用説批判
二 『古事記』の歌の生態と記載
『古事記』の歌と宮廷歌謡・歌曲
宮廷史と歌の叙事
三 [歌と散文]の表現空間
歌の叙事と散文叙述
[歌と散文]による構成
歌と会話文
四 [歌と散文]の文体と成立
[歌と散文]による『古事記』の文体
[歌と散文]からみた『古事記』の成立
注釈初出一覧
あとがき
索引
事項/作中神名・人名/歌番号


