日本書紀段階編修論 
文体・注記・語法からみた多様性と多層性 
葛西太一 著

2021年2月28日発行
定価:11,000円(10%税込)
A5判・上製・380頁
ISBN:978-4-909832-32-0

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内容紹介著者紹介目次受賞・書評・紹介関連情報

どのように編修され成立したのか
言語表現から切り込む

矛盾や齟齬の多い本文は、そもそも「どのように」書かれているのか。
古訓や古注釈によって「読める」ように是正されてきた従来の解釈を見直し、文体的特徴の分析により記述に即した実証的読解のための枠組を構築する。
東アジアにおける文字・漢文・文献の交流を示す史料としての価値を見出し、日本書紀が成立するまでの段階的な編修過程を明らかにする。

第15回 日本古典文学学術賞(2022年)
第39回 上代文学会賞(2022年)

2020年度科学研究費補助金(研究成果公開促進費)交付図書

葛西太一(かさい・たいち)
上智大学文学部国文学科卒業。上智大学大学院博士前期課程修了の後、株式会社サンライズを経て、上智大学大学院博士後期課程修了。博士(文学)。
現在は独立行政法人日本学術振興会特別研究員PD(國學院大學)。

主な著書に、『「上代のことばと文字」入門(上代文学研究法セミナー)』(分担執筆、花鳥社、2020年)、主な論文に「日本書紀β群の表現とその特質」(日本漢字能力検定協会編『漢字文化研究』第11号、2021年)などがある。

凡例

頭言

第一章 文体・句読の差異からみた日本書紀

緒言
第一節 〈句頭辞〉の使用
句の始発と句読
頻用される〈句頭辞〉
接続詞の熟字化
目印としての機能
附表一 句頭辞使用頻度一覧
第二節 〈句末辞〉の使用
句の終止と句読
〈句末辞〉の使用傾向
〈句頭辞〉と〈句末辞〉の相関
附表二 句末辞使用頻度一覧
第三節 〈同字数句〉の連接
字句の整斉と句読
字句整斉を志向する諸巻
〈同字数句〉の連接による構句とその方法
字句整斉と漢語漢文の結び付き
第四節 日本書紀区分論続貂
相補的な関係性
日本書紀区分論の展開
天武紀上下巻の帰属
文体的特徴の転換

第二章 注記・表現の重複からみた日本書紀

緒言
第一節 神武紀冒頭部の位置付け
神武紀のアマテラス
アマテラスの呼称転換
被訓注語の重出
施注不順の問題
神代と人代の区分線
巻区分の編修・整理
神代紀最後半部としての神武紀冒頭部
第二節 神武東征と二つの詔
二つの詔の類似点
二つの詔と周易語・文選語
「中心」と「墺區」の対応・非対応
加筆による体裁の整理
第三節 日本武尊関係記事の構句と表現
修正・加筆・潤色と述作方針
字句整斉への志向とその偏在
字句整斉と和化漢文
景行紀と神武紀に共通する構句と表現
天皇と日本武尊の対話に共通する表現
崩御する臣・日本武尊
景行紀にみる述作の多層性
第四節 「頼」字の古訓と解釈
訓読の問題
神代紀「恩頼」の解釈
「頼」字と古訓「ミタマノフユ」の結び付き
統治に関わる加護・恩沢の拠り所
日本書紀区分論との照応
統治の拠り所をめぐる「天皇」概念の転換
第五節 訓注と被訓注語の係り受け
訓注の適用範囲
訓注と被訓注語の限定的な関係
訓注の語形と施注方法
漢字表記「妹」の語義と注記
漢語「魁帥」の語義と注記
訓注の係り受けと文脈
附表三 被訓注語分布一覧

第三章 語法・表記の揺らぎからみた日本書紀

緒言
第一節 助数詞「迴」の周辺
規範の所在
「迴」字の助数詞用法
小説や仏典に見える助数詞「迴」
規範を外れた語法の混在
第二節 語りの方法とその定型化
本行中の注釈的記事
語りの方法と類型
文末定型表現「~縁也。」の機能
「~縁也。」の語義とその由来
上代文献における「~縁也。」
語りの定型化と歴史叙述
第三節 壬申紀「虎着翼放之」の解釈
天武は聖帝か暴君か
異説の提示と破格の語序
『逸周書』に由来する「毋為虎傅翼」
日本における「虎」の位置付け
壬申紀内部の齟齬と和習
典拠表現の転化と和化
第四節 上代文献における「河上」「川上」の語義と表記
「かはかみ」か「かはのほとり」か
漢語「河上」「川上」の解釈
古事記の用例
風土記の用例
万葉集の用例
日本書紀の用例
成書化以前の和語「かはかみ」
和語と漢語の同居
第五節 景行紀と豊後国風土記の漢語表現
表現の類似と不一致
景行紀「穿山排草」から大野郡「穿山靡草」へ
景行紀「天皇車駕」から速見郡「天皇行幸」へ
多義性を忌避する速見郡の表現
豊後国風土記からみた景行紀の表現

終章 日本書紀段階編修論

多様な述作者群と多層的な編修過程
第一章のまとめ
第二章のまとめ
第三章のまとめ
日本書紀段階編修論

初出一覧
あとがき
索引(文字資料・研究者名・用語事項・日本書紀巻別・図表)

「日本語の研究」第19巻3号(2023年12月)に書評が掲載されました。
【評者 是澤範三氏】

「著者は「頭言」で太田善麿・小島憲之・森博達・瀬間正之の研究をあげ、「『日本書紀区分論』は実証的な本文研究を行うための基礎的な方法論として確立した。」(p.10)として、独自の観点からの区分論を立てることに成功した。」


第15回 日本古典文学学術賞を受賞しました。


第39回上代文学会賞を受賞しました。選考経過が「上代文学」第128号(2022年4月)に記されています。

「総体としてはまさに圧倒的な説得力を放っています」


「文学・語学」第237号(2023年4月)の「令和3年 国語国文学界の動向 上代散文」にて紹介されました。
【執筆者 大館真晴氏】

「特筆すべきは「第一章 文体・句読の差異からみた日本書紀」である。……同書は他の章についても説得力のある論を展開しており、今後、『日本書紀』を研究する者にとって重要な位置を占める書となった。」


「国語と国文学」第100巻第1号(2023年1月)に書評が掲載されました。
【評者 山田純氏】

「……本書の問いは修辞と表記の問題、すなわち「日本書紀のあや」をめぐる文学的問題である、ということになる。本書は成立論の一分野であった区分論を、文学研究にまるごと位置づけ直してしまった画期的研究なのである。」


「古事記年報」六十四(2022年3月)に書評が掲載されました。
【評者 北川和秀氏】

「本書は、いずれの章も極めて丹念な用例採取と、無理のない考察とで、非常に説得力のある内容となっている。」


「和漢比較文学」第68号(2022年2月)に書評が掲載されました。
【評者 奥田俊博氏】

「本書において貫かれているのは、用例の収集とその分析であるが、その点も高く評価できるものである。(中略)データの分析や用例分布等の表がAからXまで二十四表あるのも、たいへん参考になる。これらのデータは、今後の『日本書紀』の本文研究において重要な意義を有すると言える。」


「萬葉」第232号(2021年10月)に書評が掲載されました。
【評者 橋本雅之氏】

「著者の研究が、これまでの日本書紀区分論と比較して新しくかつ優れている点は、句頭辞や同字数句という散文を構成する形式面に着目し、それを文体的特徴として網羅的に調査した方法にある。」
「今後の区分論は著者の結論に基づいて展開してゆくに違いないと思う。」


「美夫君志」第103号(2021年10月)で紹介されました。
【評者 大島信生氏】

「日本書紀の区分、編纂を考察する際に極めて重要な一冊である。」

葛西太一氏(日本学術振興会特別研究員PD)が、論文「日本書紀β群の表現とその特質」にて、2020年度(第15回)漢検漢字文化研究奨励賞優秀賞を受賞(主催:公益財団法人 日本漢字能力検定協会)。講評:森博達氏。

公式サイト(受賞論文PDFを公開):
https://www.kanken.or.jp/project/investigation/incentive_award/2020.html

「本稿は既に発表した「日本書紀における「頼」字の古訓と解釈——統治の拠り所をめぐる「天皇」概念の転換——」(『上代文学研究論集』第4号、編:國學院大學上代文学研究室、2020年3月)および「日本書紀における語りの方法と定型化——文末表現「縁也」による歴史叙述——」(『和漢比較文学』第65号、編:和漢比較文学会、2020年8月)に基づき、発表の後に賜った批正・示教を反映させ、各論の意義を整理して論じ直したものである。」


受賞論文の基になった「日本書紀における「頼」字の古訓と解釈——統治の拠り所をめぐる「天皇」概念の転換——」、「日本書紀における語りの方法と定型化——文末表現「縁也」による歴史叙述——」の2つは、加筆修正して『日本書紀段階編修論 文体・注記・語法からみた多様性と多層性』に収録されています。