小町谷照彦セレクション 3
源氏狭衣の論
小町谷照彦 著

倉田実 責任編集

2023年1月31日発行

定価:19,800円(10%税込)

A5判・上製・756頁

ISBN:978-4-909832-41-2

第3回配本・完結

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内容紹介著者紹介目次

古今集、拾遺集、源氏物語研究等におおきな影響をあたえた、著者の単行本未収録論集・全3冊、ついに完結!
王朝文学全般にわたる、刺激に満ちた数々の論考は、縦横無尽に古典作品の魅力と問題点を伝える。
河添房江氏(東京学芸大学名誉教授)、渡部泰明氏(国文学研究資料館館長)推薦!

1. 『古今和歌集の論』……『古今集』の成立、表現形態を分析し、歌語研究である「歌ことば」「歌枕」論で『古今集』の表現技法、その特質にあらゆる切り口から迫る。巻末に「歌語辞典」も収載。(2022年1月刊)

2. 『拾遺和歌集と歌ことば表現』……『拾遺集』の史的位置づけ、成立した時代の動向、公任と『拾遺抄』、歌人論などを著者独自の視点で考察した『拾遺和歌集』論。(2021年6月刊)

3. 『源氏狭衣の論』(本巻)……『源氏物語』の表現と物語のなかの「うた」と「歌ことば」に焦点をあてて究明した論考や『源氏物語』の巻の展開と人物の考察で構成。加えて、『狭衣物語』の地名・和歌の問題も究明する。古典文学の基本知識を抑えた「王朝語辞典」も収載。

小町谷照彦(こまちや・てるひこ)

1936年6月22日、長野県駒ケ根市に生まれる。2014年10月31日、逝去。


学歴●
1960年3月、東京大学文学部国文学科卒業、1966年3月、東京大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学。


職歴●
1966年4月、常葉女子短期大学講師、1969年4月、成城大学短期大学部講師、1970年4月、同助教授、1971年4月、東京学芸大学講師、1972年3月、同助教授、1984年4月、同教授、2000年3月、同退職、2000年4月、東京経済大学経済学部教授、2000年5月、東京学芸大学名誉教授、2006年3月、東京経済大学退職。


主要著書●

[単著]『現代語対照 古今和歌集』(旺文社文庫、旺文社、1982)、『源氏物語の歌ことば表現』(東京大学出版会、1984)、『藤原公任 余情美をうたう』(王朝の歌人7、集英社、1985)、『古今和歌集と歌ことば表現』(岩波書店、1994)、『中古の日本文学』(放送大学教育振興会、1997)、『王朝文学の歌ことば表現』(中古文学研究叢書3、若草書房、1997)、『絵とあらすじで読む源氏物語―渓斎英泉『源氏物語絵尽大意抄』』(新典社、2007)、『古今和歌集』(ちくま学芸文庫、筑摩書房、2010)、『あらすじで楽しむ源氏物語』(新典社、2010)。

[共著]『伊勢集全注釈』(角川書店、2016)。

[編著]『古今和歌集』(日本文学研究資料叢書、有精堂、1976)、『榊原本私家集一』(日本古典影印叢刊、日本古典文学会、1978)、『小倉百人一首 くわしい解説・設問付き』(文英堂、1983)、『國文學 古典文学基本知識事典』(学燈社、1988)、『カラー版 古今和歌集』(桜楓社、1988)、『國文學 平安時代を知る事典』(学燈社、1989)、『別冊國文學 古典文学基礎知識必携』(学燈社、1991)、『源氏物語鑑賞と基礎知識 御法・幻』(至文堂、2001)、『別冊國文學[必携]源氏物語を読むための基礎百科』(学燈社、2003)、『源氏物語鑑賞と基礎知識 宿木(後半)』(至文堂、2005)。

[共編著]『古今集』(シンポジウム日本文学、学生社、1976)、『源氏物語』(鑑賞日本の古典、尚学図書、1979)、『標準新国語便覧』(文英堂、1985)、『名所歌枕伝能因法師撰の本文の研究』(笠間書院、1986)、『賀茂真淵全集 第12巻』(続群書類従刊行会、1987)、『拾遺和歌集』(新日本古典文学大系、岩波書店、1990)、『古今和歌集』(新潮古典文学アルバム、新潮社、1991)、『源氏物語図典』(小学館、1997)、『歌ことばの歴史』(笠間書院、1998)、『狭衣物語』(新編日本古典文学全集、小学館、1999)、『平安朝の文学』(放送大学教育振興会、2001)、『古今和歌集研究集成』(全三巻、風間書房、2004)、『東書最新全訳古語辞典』(東京書籍、2006)、『王朝文学文化歴史大事典』(笠間書院、2011)。

 

〈編者〉倉田 実(くらた・みのる)


大妻女子大学名誉教授。


凡例

Ⅰ 源氏物語の和歌の論
1 源氏物語の和歌―物語の方法としての側面

2 物語日記文学の形成にかかわる和歌の役割は何か

3 歌と語り

4 和歌の世界と物語の世界

Ⅱ 源氏物語の構造と和歌的表現の論
1 桐壺巻の和歌再読

2 光源氏須磨退居と離別和歌

3 光源氏と玉鬘(1)

4 光源氏と玉鬘(2)
5 紫の上の苦悩―若菜上巻

6 紫の上の憂愁と発病―若菜下巻
7 紫の上追悼歌群の構造―時間表現をめぐって

8 玉鬘大君求婚譚と和歌―竹河巻前半をめぐって

9 「早蕨」の歌ことば表現を読む

10 〈物語をどう論じるか〉うたと歌ことば―宿木巻
11 藤花の宴をめぐって
12 橘の小島

Ⅲ 源氏物語の巻の展開と人物の論
1 「少女」「玉鬘」

2 玉鬘求婚譚―螢・常夏・篝火

3 「若菜上」〜「幻」
4 「東屋」「浮舟」「蜻蛉」「手習」「夢浮橋」
5 源氏物語作中人物論の方法―表現論として

6 源氏物語の人間像―末摘花・花散里・女三の宮・夕霧

7 源氏物語作中人物論 薫

Ⅳ 源氏物語享受の論
1 萩原広道の評釈
2 源氏百人一首のことなど―源氏物語享受の一位相

3 源氏貝和歌のこと

4 百人一首版本の源氏物語
5 源氏文化の現在

Ⅴ 狭衣物語の論
1 六条斎院宣旨論―『狭衣物語』の作者
2 狭衣物語の地名表現
3 狭衣物語の歌と本文の問題
4 狭衣物語の和歌の時代性

Ⅵ 王朝語の世界
1 年中行事 追儺
2 通過儀礼 算賀
3 世界空間 都
4 平安文学と漢文学
5 王朝語辞典
葵(あおい)/秋野(あきの)/胡床(あぐら)/朝顔(あさがお)/浅茅(あさじ)/雨(あめ)/菖蒲(あやめ)/医学・本草(いがく・ほんぞう)/囲碁・双六(いご・すごろく)/倚子(いし)/鶯(うぐいす)/打敷(うちしき)/梅(うめ)/絵巻(えまき)/荻(おぎ)/女郎花(おみなえし)/音楽(おんがく)/絵画(かいが)/鏡(かがみ)/篝火(かがりび)/霞・霧(かすみ・きり)/風(かぜ)/桂(かつら)/雁(かり)/菊(きく)/教育(きょういく)/脇息(きょうそく)/櫛の箱(くしのはこ)/薫香(くんこう)/結婚(けっこん)/獣(けもの)/元服・裳着(げんぷく・もぎ)/工芸(こうげい)/荒廃の風景(こうはいのふうけい)/桜(さくら)/五月雨(さみだれ)/鹿(しか)/敷物(しきもの)/時雨(しぐれ)/地敷(じしき)/紙燭(しそく)/酒器(しゅき)/食器(しょっき)/厨子(ずし)/薄(すすき)/鈴虫(すずむし)/蟬(せみ)/前栽(せんざい)/台(だい)/大学・学校(だいがく・がっこう)/竹(たけ)/畳(たたみ)/橘(たちばな)/盥(たらい)/誕生・産養(たんじょう・うぶやしない)/着袴(ちゃっこ)/調度(ちょうど)/月(つき)/机(つくえ)/蔦(つた)/露(つゆ)/手紙・往来物(てがみ・おうらいもの)/燈台(とうだい)/燈籠(とうろ)/賭博(とばく)/撫子(なでしこ)/萩(はぎ)/箱・櫃(はこ・ひつ)/花の女君(はなのおんなぎみ)/花紅葉(はなもみじ)/晴・褻(はれ・け)/盤・坏(ばん・つき)/火桶(ひおけ)/蜩(ひぐらし)/屛風歌(びょうぶうた)/藤(ふじ)/藤袴(ふじばかま)/螢(ほたる)/時鳥(ほととぎす)/母乳(ぼにゅう)/松(まつ)/松明(まつ)/松虫(まつむし)/御燈明(みあかし)/御帳台(みちょうだい)葎(むぐら)/虫(むし)/筵(むしろ)/紫草(むらさき)/文字(もじ)/餅(もち)/紅葉(もみじ)/柳(やなぎ)/大和絵(やまとえ)/山吹(やまぶき)/夕顔(ゆうがお)/遊戯(ゆうぎ)/雪( ゆ き )/泔坏(ゆするつき)/容器(ようき)/蓬(よもぎ)/類型(るいけい)/六条院の前栽(ろくじょういんのせんざい)/円座(わろうだ)

初出一覧
解説 倉田実
引用和歌初句索引

推薦のことば

「歌ことば表現」の魅⼒
河添 房江 東京学芸⼤学名誉教授

 ⼩町⾕照彦先⽣は、卒業論⽂を藤原公任、修⼠論⽂を『拾遺集』でまとめられるという、平安和歌研究の王道を歩まれた⽅である。また秋⼭虔先⽣の愛弟⼦として、『源⽒物語』の論考も多く、物語と和歌の関係という、トレンドの研究テーマのパイオニア的存在であった。源⽒研究や和歌研究の画期をなす論⽂は、『源⽒物語の歌ことば表現』『古今集と歌ことば表現』『王朝⽂学の歌ことば表現』という、いわゆる「歌ことば表現」三部作に収められている。その先⾒性と実証的⽅法、明晰な表現分析により、多くの研究者が先⽣の学恩にあずかったのである。
 「歌ことば表現」は先⽣のオリジナルな造語で、その題を決められた時、編集者から「歌ことば表現」とは⻑々しいと⼀度はクレームがついたものの、次回の打合せではかえってインパクトがあると⾔われて、決まったという。「歌ことば表現」とは、「和歌を形成する基盤としての歌語」ばかりでなく、「和歌を構成する⽅法としての修辞技法」、さらに「和歌が導き出した⽂学的時空」を包括する概念であり、その後の歌語・歌ことば研究を⽬ざましく進展させていった。
 先⽣のそうした和歌や物語の研究のエッセンスが、いま花⿃社から『⼩町⾕照彦セレクション』の三冊として刊⾏されると聞いて、喜びに堪えない。若い研究者の⽅々にもぜひ読んでいただき、和歌と物語の関係性という永遠のテーマについて、『源⽒物語』やそれ以降の物語も掘り下げていただければと切に願うのである。

表現の母胎へのまなざし
渡部 泰明 国文学研究資料館館長

 直接に指導を受けたというわけではなくとも、ひたすら感謝の意を捧げたい研究者が、誰にでも存在するだろう。私の場合、小町谷照彦氏はそのお一人である。自分の研究の根幹となる発想へと導いていただいた。「歌ことば」への着目がそれである。『源氏物語の歌ことば表現』『古今和歌集と歌ことば表現』『王朝文学の歌ことば表現』の著書があり、本セレクション第一冊にも「歌ことばの論」と題する一章があるように、「歌ことば」は氏の学問の核となる概念である。私なりの文脈で述べることをお許しいただくなら、歌ことばへの着目は、表現の母胎を解析する方法を導く、といえる。様式的な表現に枠づけられた和歌に、どうして人の心が託しうるのか。韻文である和歌と物語や随筆などの散文には、どこに接点があるのか。あるいはまた、作品の詩的達成を、客観的な指標によって明示することは可能なのかどうか。迷路に入り込むたびに、「歌ことば」という視点は、たしかな道筋を示してくれた。言葉が言葉を紡ぎ出し、広がりゆき、結び合う、そのような言語の動態こそ、詩的表現を生み出す原動力なのだと、行きなずむ背中を押していただいた。厳正でありながら、柔軟な思考に支えられたその論考の、大きな射程のゆえである。