古代政治史の死角
松尾光 著
2022年4月30日発行
定価 2,640円(10%税込)
四六判・上製・402頁
ISBN:978-4-909832-51-1
政治は誰のためにするものか。
律令制定に尽力した藤原不比等、政権に叛旗を翻した藤原広嗣、天然痘に苦しむ人民を見過ごした聖武天皇——皇族・貴族など支配者層の目に、国家・社会・民衆はどう映っていたのか。 為政者たちの視点からこぼれ落ちた事実をすくいあげ、歴史を再評価する。
「歴史上の事柄は、幸いなことに、たった一人でも、その見る位置を自在に変えながら観察することが可能だ。かれらが当時死角に置いたであろうものを、何年かかるかはわからないが落ち着いて描き出すことができる。死角だらけの人たちが残した史料からでも、その死角の共通性をかいくぐれれば、死角に入ったものに近付けるのではないか。(中略)あえていえば時代を導いてきた人たちの輝かしい政績を並べて記述するよりも、「死角に入ってしまう事実を、この手で摑み取りたい」と日ごろ願って書いてきた。」(「はじめに」より)
松尾 光(まつお・ひかる)
1948年、東京生まれ。
学習院大学文学部史学科卒業後、学習院大学大学院人文科学研究科史学専攻博士課程満期退学。博士(史学)。
神奈川学園中学高等学校教諭・高岡市万葉歴史館主任研究員・姫路文学館学芸課長・奈良県万葉文化振興財団万葉古代学研究所副所長を歴任し、その間、学習院女子短期大学・鶴見大学文学部・中央大学文学部・早稲田大学商学部非常勤講師を兼務。現在、奈良県立万葉文化館名誉研究員、早稲田大学エクステンションセンター講師。
単著に『白鳳天平時代の研究』(2004、笠間書院)『古代の神々と王権』『天平の木簡と文化』(1994、笠間書院)『天平の政治と争乱』(1995、笠間書院)『古代の王朝と人物』(1997、笠間書院)『古代史の異説と懐疑』(1999、笠間書院)『古代の豪族と社会』(2005、笠間書院)『万葉集とその時代』(2009、笠間書院)『古代史の謎を攻略する 古代・飛鳥時代篇/奈良時代篇』(2009、笠間書院)『古代の社会と人物』(2012、笠間書院)『日本史の謎を攻略する』(2014、笠間書院)『現代語訳魏志倭人伝』(2014、KADOKAWA)『思い込みの日本史に挑む』(2015、笠間書院)『古代史の思い込みに挑む』(2018、笠間書院)『闘乱の日本古代史』(2019、花鳥社)『飛鳥奈良時代史の研究』(2021、花鳥社)ほか。
はじめに
Ⅰ●国家・施策
近江大津宮の遷都理由と選地 一 なぜ遷都が必要になったのか 二 なぜ遷都先に大津が選ばれたのか 三 大津宮は恒久施設か臨時施設か 四 大津宮跡はどんなものか 五 大津宮の古歌の解釈の誤りとは 日本書紀編纂の材料と経緯 一 『日本書紀』編纂の企画 二 『日本書紀』編纂の材料 三 『日本書紀』の編纂過程 疫病の流行──律令国家の天然痘への対処法 一 天然痘の蔓延 二 天平の大流行 赤裳瘡流行後の風景──天平の世に教わるもの 一 変わり果てた農村 二 天平の「偉業」 国分寺建立の詔への疑義 一 国分二寺の建立はいつからはじまったのか 二 国分寺は、計画通り全国に建てられたのか 三 尼寺はだれが運営していたのか 上皇時代の明と暗 一 創出された上皇の役割 二 対立・対抗する上皇 三 「治天の君」となる上皇
Ⅱ●氏族・人物
神武東征譚成立の理由をさぐる
一 記紀の記す神武東征譚
二 史実とされる神武東征譚
三 観念としての東征譚
葛城一族滅亡のシナリオ
一 葛城氏の滅亡
二 葛城氏の本拠地
三 葛城氏と大王家
四 葛城氏の勢力基盤
物部氏の神話と職掌
一 饒速日命は、なぜ神武東征前に降臨していたのか
二 物部の職掌と氏名の意味は
三 尾輿・守屋は仏教導入反対の急先鋒だったか
四 物部氏の分布とその後
祖先を神として守り抜く信念に生きた物部守屋──侠の歴史①
一 丁未の変の顚末
二 仏教公伝をめぐる対立
覚えのない容疑にあえて身を捧げた長屋王──侠の歴史②
一 期待されて登場した長屋王
二 長屋王排斥の理由
大忠臣の誇りを胸に無念の最期を遂げた藤原広嗣──侠の歴史③
一 大宰府での挙兵
二 我は大忠臣なりという誇り
行基の伝記と評価
一 行基の伝記
二 行基と聖武天皇の関係
三 『日本霊異記』と行基の教え
橘一族の栄枯盛衰
一 創氏と諸兄政権
二 実現間近だった橘氏の栄華
三 橘一族のその後
政治は誰のためにするものかを心に問い続けた橘諸兄──侠の歴史④
一 橘諸兄の登場
二 諸兄のめざした政治
三 聖武天皇の迷走と光明皇后の豪腕
Ⅲ●社会・慣習など
コトバを創り、話したように記す──古代びとの挑戦
一 コトバを創る
二 文に書き記す
日本古代の高齢者
一 「老」の年齢
二 老年人口の実情
三 老の光と影
牛と古代びと
一 牛と宮廷
二 民間における牛
吉成勇さんのご逝去を悼む
古代天皇系図
あとがき
■「週刊読書人」第3454号(2022年8月26日、3面)に書評が掲載されました。
【評者 木本好信氏】
「客観的な叙述に徹するのが歴史研究者に課せられた宿命だが、古代の人びとに寄り添って、その目線から歴史的事実を追究することもまた歴史研究者の宿命ではないかと思うと、そこに新しく見えてくることもある。その点で本書は読者の琴線に触れるものであって興味深く読んでいただけると思う。」
公式サイト(読書人WEB):https://jinnet.dokushojin.com/blogs/news/20220826