鏡花文学の信仰と図像 
物語ることへの意志 
富永真樹 著

2023年10月30日発行
定価:4,950円(10%税込)
A5判・上製・256頁
ISBN:978-4-909832-77-1

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内容紹介著者紹介目次

鏡花迷宮の設計図! 幻想は切実さによって信仰と結ばれ、信仰と幻想は図像に宿った。

厳しい現実を前にして人々が求めた信仰と、図像との関わりを探り、鏡花が到達したものを明らかに。
現実逃避ではなく現実を直視するリアリズムから、鏡花幻想が誕生する。
そのパラドクスの指摘にとどまらず、「近代以前の物語」と「近代小説」の関係性までをも展望する8篇の論考。

【鏡花生誕150年記念】


「近代小説の誕生が〈物語〉とは異なる論理を探すところから出発していることに加え、(中略)新たな概念がもたらす境界は、過去に溶け合っていた世界を切り分けることになるのである。「小説」「宗教」「美術」といった概念が設けられることは、各要素の結びつきを断ち切ることでもある。

かつて〈物語〉や信仰、そして図像という要素は切り離し難く存在していた。それは特に祈りの場において顕著であったといえる。今も神社仏閣、教会等に残される宗教美術の多くは、人々が語りと視覚イメージを通して〈物語〉を自らの内部に取り込む「絵解き」のためのものであり、そこから生じた理解と共感を基盤として祈りが行われた。

泉鏡花はそのような境界線が引かれる以前の認識、あるいは世界像を作品に描き出そうと試みた作家の一人である。
樋口一葉とともに「〈物語〉的な世界に佇」み、「〈近代〉における〈物語〉の源淵」に位置するのが鏡花であったという(山田有策氏)。
こうした見解は、鏡花と同時代を生きた読者、または三島由紀夫はじめ彼を高く評価した作家たち、さらには現在の鏡花への評価においても共有されるものである。

本書は図像、信仰という要素を視座として、鏡花作品を読み返す。このとき諸領域を繋ぐのが、小説作品において「物語る」ことへの試みである。そしてその試みを探ることは、近代小説家としての鏡花の意志、あるいはそのもとで結実された世界に、わずかながらであれ、光をあてることができると考えるのである。」

(序より)

富永 真樹(とみなが まき)

慶應義塾大学大学院文学研究科国文学専攻後期博士課程単位取得退学。

博士(文学、慶應義塾大学)。
現在、青山学院大学等非常勤講師。

主要論文
「泉鏡花「夫人利生記」論─図像と信仰─」(『三田國文』 第63号、平成30年12月)
「書物という世界─小村雪岱の装幀から泉鏡花『日本橋』 を見る─」(『日本近代文学』第95集、平成28年11月)

著書
泉鏡花研究会『論集 泉鏡花 第七集』(共著、「「古狢」論─〈魔〉 を生み、導く─」、和泉書院、令和4年12月)
小平麻衣子編『文藝首都』─公器としての同人誌─』(共著、「大原富枝「女流作家」への道─『文藝首都』から「婉という女」へ─」、翰林書房、令和2年10月)
一柳廣孝監修、今井秀和、大道晴香編著『怪異の時空 第1巻 怪異を歩く』(共著、「土地の神が〈怪異〉になるとき─泉鏡花「山海評判記」から─」、青弓社、平成28年8月)

凡例


序

第一部 同時代宗教へのまなざし

第一章 「思想惑乱の時代」における〈現実〉へのまなざし―「瓔珞品」―
 一、同時代宗教問題
 二、救いのかたち
 三、「宗教」と信仰
 四、〈現実〉への応答

第二章 〈聖〉と〈魔〉のダイナミズム―「風流線」「続風流線」―
 一、偽〈聖〉という〈悪〉
 二、〈魔〉、「外道」と同時代状況
 三、〈聖〉から〈魔〉へ
 四、〈魔〉から〈聖〉へ
 五、「夜」から描かれる絵物語

第二部 図像と信仰

第一章 偶像に宿る信仰―「春昼」「春昼後刻」―
 一、多義性のもつ意味
 二、同時代宗教意識との関わり
 三、偶像と信仰
 四、〈非・現実〉という想像力

第二章 非在を描く試み―「夫人利生記」―
 一、樹島の欲望
 二、『釈迦八相倭文庫』への回路
 三、図像の反復、共有
 四、非在の先にあるもの
 五、祈りと応答

第三章 〈物語〉が問うもの―「山海評判記」―
 一、〈オシラ神〉のモチーフ
 二、〈産〉のモチーフ
 三、二つの〈物語〉
 四、雪岱挿絵という〈物語〉
 五、〈物語〉からの問いと応答

第三部 〈物語〉と図像

第一章 書物という世界―『日本橋』―
 一、雪岱による『日本橋』装幀
 二、重なる女たち
 三、雪岱が描く「魂」―『日本橋』見返し
 四、雪岱が描く「魂」―『日本橋』函・表紙
 五、書物としての意味

第二章 〈物語〉を体現することの試み―「国貞ゑがく」―
 一、消えゆく世界へのまなざし
 二、「国貞ゑがく」錦絵
 三、失われつつあるものを結ぶ世界
 四、「国貞ゑがく」が体現するもの

第三章 「小説家」の終わりからはじまりへ―「薄紅梅」―
 一、回想記としての「薄紅梅」
 二、糸七―語り手―鏡花
 三、引き込まれる〈物語〉
 四、「薄紅梅」に書かれる「小説」のかたち
 五、小説家・泉鏡花

 主要参考文献一覧
 図像出典一覧
 あとがき
 要語索引