万葉集と帝国的想像
トークィル・ダシー 著 品田悦一/北村礼子 訳
2023年11月30日発行
定価 12,100円(10%税込)
A5判・上製・504頁
ISBN:978-4-909832-78-8
ヤマト宮廷は文学を通して帝国となった。
古代のヤマト国家は自分たちの統治が全世界を覆うかのように想像していた。
ヤマト宮廷が生み出したあらゆるテクストに、この帝国的想像が表現されている。『万葉集』はその最たるケースである。
『万葉集』を国民的歌集とする通念は、近代国家が生んだ幻影にすぎない。
虚妄が暴かれた今、本来なされるべきだった帝国的歌集としての解読を実行する。
米国発の問題作、最適の訳者を得て待望の刊行!
「ヤマトの貴族社会は、自分たちで管理する法的、経済的、軍事的業務を必要としたが、それだけでなく、統治の主体たる彼ら自身と、彼らの支配権がくまなく及ぶはずの領域との関係を納得するための、文化的なヴィジョンや表象をも求めていた。本書で私は、この必要の重要な部分が『万葉集』の歌々によって満たされたことを論じてきたつもりである。」(「結論」より)
凡例を兼ねた覚え書き
著者まえがき
序論
第一部 帝国の文学的表象
第一章 漢字圏における帝国としてのヤマト
華夏の帝国想像
東夷
ヤマト・三韓・隋
大唐と大日本
第二章 国民的に想像された上代日本
国体
帝国的国民国家
一九四五年以後の文化ナショナリズム
多文化的ヤマト
第三章 帝国日本の形成
君主と支配領域の名称
宮都と暦
帝国のパフォーマンス
帝国の諸テクスト
第四章 帝国の歴史叙述と壬申の乱に関する物語の対抗関係
壬申の乱の概容
帝国的歴史叙述
『古事記』序における天武と壬申の乱
壬申の乱に関する二つの物語
第三の物語
歴史叙述の対抗関係
大津皇子と近江宮廷
第五章 帝国史としての歌集
国民歌集としての『万葉集』
『万葉集』の編纂と構造
帝国史としての『万葉集』
歌集のポリティクス
帝国の年代記
第二部 帝国の詩歌と一人称のポリティクス
第六章 天下の声
口語と帝国
一人称叙述としての歌
個人の声と集団の声
権威ある声と臣従する声
第七章 天武と吉野崇敬
天武の吉野の歌
吉野讃歌
一人称解読のポリティクス
あまねき讃美の声
吉野と天武・持統後の皇位継承
第八章 天武の天降り神話
『日本書紀』に描かれた草壁皇子像
日並皇子挽歌
『日本書紀』に描かれた高市皇子像
壬申の乱の記憶
高市の追悼
天武神話
第九章 近江京の記憶
『日本書紀』における近江と天智
『万葉集』巻一・巻二の「近江大津宮」の代
人麻呂の近江荒都歌
過去としての近江京
第十章 藤原宮の天皇
伊勢と日の皇子
軽皇子
安騎野遊猟歌
近しい声
聖なる君主たち
藤原宮の天皇
結論
【注】
訳者あとがき
【参照文献一覧】
1 前近代諸資料の諸テクスト
2 『万葉集』の諸注釈書
3 日本語で書かれた諸論
4 欧文による諸論
引用歌英訳
索引
■『短歌研究』2023年9月号(短歌研究社)の、
「座談会 『万葉集』を成り立たせた帝国的想像」
では、『万葉集と帝国的想像』について縦横無尽に語り合われています。
(参加者:トークィル・ダシー/齋藤希史/月岡道晴/品田悦一)