中世王朝物語の新展望
時代と作品
横溝博・金光桂子 編
2023年11月30日発行
定価 12,100円(10%税込)
A5判・上製・512頁
ISBN:978-4-909832-79-5
物語文学にまつわる多様なテーマを、新たに中世王朝物語から切りひらく!
物語の生成と享受の場を復元し、日本文化に占める作り物語の位置を把捉する。
気鋭の22名による書き下ろし。対象物語数20作品以上。
「本書の諸論考は中世王朝物語を主たる対象として論じたものでありながら、王朝物語全般にかかわる問題提起に満ちあふれている。王朝物語の全体にわたって豊かな研究上の知見を提供するものであると同時に、平安朝以降の王朝物語文学史をまるごと把握していこうとするような壮大なパースペクティブのもと、論が展開されている。……いずれの論考も、物語史的な展望と無縁のものはないはずである。この先、王朝物語研究が目指すことになる地平が遠望され、きわめてスケールの大きい見通しに立って、精緻かつ大胆な論がこころみられている。本書を、『中世王朝物語の新展望 時代と作品』と題するゆえんである。」(「はじめに」より)
はじめに
Ⅰ 中世王朝物語と時代
『無名草子』の老尼が見た時代——中世王朝物語始発期の一断面——◉西本寮子
はじめに/始まりは忠通の時代/『在明の別』の成立から垣間見えるもう一つの時代/ふたつの時代を繋ぐ皇嘉門院/高倉院による建春門院供養/兼実の周辺に見る新たな時代の兆し/おわりに
『浅茅が露』の成立環境——北山の聖の自己語りを起点として九条家の周辺に及ぶ——◉桜井宏徳
はじめに/北山の聖の父とその死——「内裏の大番」「内野」に着目して/渡宋僧の面影——北山の聖の足跡を辿って/死と再生の蓮台野——藻壁門院の亡霊と姫君の蘇生/法輪寺から書写山へ——『法華経』読誦との接点/おわりに
『藤の衣物語絵巻』に描かれた場と時代背景——あそびの宿・修学院・高野山について——◉伊東祐子
はじめに/詞書と画中詞の語彙・語法の異なり/詞書「侍り」と画中詞「候ふ」の対立/『藤の衣物語』に描かれた場/むすび
『夢の通ひ路物語』の成立について再考——頭注は手がかりになり得るか——◉安道百合子
はじめに/頭注は作者が書いたものか/物語の構造との関わり/頭注が指摘しない引歌/場面取りの注における引歌指摘のむら/おわりに
Ⅱ 中世王朝物語と和歌
『とりかへばや』和歌表現に見られる時代性——後撰和歌集六七九番歌受容を支点として——◉片山ふゆき
はじめに/『後撰和歌集』六七九番歌/『後撰和歌集』六七九番歌受容史と『とりかへばや』/おわりに
中世王朝物語の引歌表現——その〈歌撰び〉の概要——◉萩野敦子
はじめに/中世王朝物語の引歌表現における引用元(本歌の典拠)/中世王朝物語に多く引用された勅撰集収載歌/『金葉和歌集』以降の勅撰集収載歌からの引用/おわりに——「引歌」という「秀歌撰」
『建礼門院右京大夫集』の物語性◉小島明子
はじめに/『右京大夫集』と『山路の露』の類似/中世歌物語というジャンル/『隆信集』『右京大夫集』の重なり/『右京大夫集』戦乱中の贈答歌/『右京大夫集』資盛の遺言めいた言葉/おわりに
Ⅲ 中世王朝物語と物語受容
『狭衣物語』から『山路の露』へ——〈その後〉をひらく物語——◉小川陽子
はじめに/『山路の露』における薫の「癖」/『山路の露』における薫の小野訪問と『狭衣物語』最終場面/『山路の露』序と『狭衣物語』跋文/おわりに
「宮の御方」の物語の源流と展開——『在明の別』の「対の上」の物語との関係を中心に——◉辛島正雄
「宮の御方」の物語への注目/「宮の御方」とその物語/「宮の御方」の物語の内と外/「宮の御方」の物語の源流——『大和物語』と『竹取物語』と/「宮の御方」の物語から「対の上」の物語へ——〈危うい物語〉の誕生/「もの恥ぢ」の転移——『今とりかへばや』の男尚侍へ/「対の上」の物語の位相——継承と反撥と
『有明の別れ』における『狭衣物語』〈引用〉論序説——作品後半の検討を通した〈主人公〉のあり方の問題提起——◉松浦あゆみ
『有明の別れ』の『狭衣物語』〈引用〉をめぐる構造と問題点概観/巻三末尾近くの東宮の嵯峨行啓をめぐる『狭衣物語』〈引用〉のあり方/巻二初めの左大臣の愛執と好色をめぐる『狭衣物語』〈引用〉のあり方/『有明の別れ』の『狭衣物語』〈引用〉検討を通した問題提起——〈主人公〉をめぐる装置
実の親を知る后妃——『在明の別』『いはでしのぶ』における「明石姫君」摂取——◉宮﨑裕子
はじめに/『在明の別』の中宮/『いはでしのぶ』の中宮/『在明の別』から『いはでしのぶ』へ/おわりに
『いはでしのぶ』における「面影」——付、中世における平安時代作品の享受の様相——◉勝亦志織
はじめに/中世における平安時代作品の享受について/新しい作品形成という享受/「面影」再考Ⅰ——宰相中将と右大将にまつわる面影/「面影」再考Ⅱ——『狭衣物語』からの享受/おわりに
『木幡の時雨』〈同母姉妹〉の物語としての一様相——『夜の寝覚』との関連をめぐって——◉伊達 舞
はじめに/『夜の寝覚』との共通性——〈一人の男と姉妹の三角関係〉の形成過程/『夜の寝覚』における大君の葛藤——〈同母姉妹〉の交換可能性と差異/『木幡の時雨』における三の君の葛藤のずらしと〈姉妹交換〉——差異の解消とその方法/結びにかえて
悲恋の物語としての『しのびね物語』『しぐれ』——長恨歌周辺の説話から『源氏物語』、そして「しのびね型」へ——◉大槻福子
「しのびね型」の物語とその主題/『しのびね物語』/『しぐれ』/『外伝』周辺の説話から『源氏物語』、そして中世王朝物語へ/『長恨歌』の世界と王朝物語——理想の男性を求めて/おわりに
Ⅳ 中世王朝物語の主題と方法
『古とりかへばや』は駄作か◉中島正二
問題の所在/『無名草子』の『古本』評/『古本』はいかに語られてきたか/「改作」=「ものまねび」再考/「改作」イメージの捉え直し/「月ごとの病、いと汚し」をめぐって/終わりに
『松浦宮物語』にみる終端技法——跋文に関する私考——◉井 真弓
はじめに/『松浦宮物語』内の非物語的記述/省筆部分の再確認/跋文の解釈(一)——改作者の存在/定家が想定した改作者/「貞観」、「染殿」というキーワードと『伊勢物語』/跋文の解釈(二)——まこと・そらごと/跋文の解釈(三)——白居易との関わり/おわりに——跋文の新解釈
『松浦宮物語』終結部の氏忠——「契り」の自覚——◉金光桂子
はじめに/華陽公主転生場面の贈答歌/「契り」の用例/「契り」の自覚/氏忠の変化/「契り」と「命」/おわりに
『しづくににごる』考——一品宮と尚侍——◉関本真乃
問題の所在/一品宮の役割/主題/尚侍/おわりに
『むぐら』の姉妹——紐帯としての役割——◉毛利香奈子
はじめに——重なりゆく姉妹/大将と春宮の蜜月——「長楽寺の姉妹」の共有/姉妹をめぐる不協和音——劣等感の矛先/融和する帝と春宮/おわりに——姉妹の分身としての「衣」
『我身にたどる姫君』の完結性——巻八・新帝への予言をめぐって——◉横溝 博
はじめに——「御位三十六年」の謎/女帝降臨の場面をめぐって/新帝の治世と物語年次の関係/『我身にたどる姫君』の時間構造/『我身にたどる姫君』の完結性/おわりに——三十六年後の世界へ向けて
Ⅴ 中世王朝物語と絵画
「紅の袴」が表象するもの——『堤中納言物語』「虫めづる姫君」の「白き袴」 序説——◉馬場淳子
はじめに/「紅の袴」の研究史から/『源氏物語』の、女の穿く「紅の袴」の用例/延慶本『平家物語』の、女の穿く「紅の袴」の用例/女のセクシャリティや身体の喩としての、女の穿く「紅の袴」の用例/結び
奈良絵本『花世の姫』伝来考——鹿田静七蔵本から広島大学蔵本への展開——◉妹尾好信
はじめに——「後期中世王朝物語」試案の提示/『花世の姫』は「後期中世王朝物語」か/『花世の姫』の伝本/広島大学本と鹿田本の共通点と相違点/広島大学本の構造/無刊記絵入り版本と広島大学本の関係/三巻三冊本から二冊本への改装/おわりに
あとがき
執筆者紹介