新版 徒然草抜書
表現解析の方法 
小松英雄 著

2020年10月下旬刊行予定
定価:本体2,700円+税
四六判・並製・392頁
ISBN:978-4-909832-19-1

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古典の文章を解釈する方法はどのようにあるべきか

『徒然草』から、従来の解釈では理解しにくい章段を選んで解析。
表現の核心に迫ってゆく楽しさを提示した名著、待望の復刊!

「この小冊は、古典文学作品の文章を解釈する方法がどのようにあるべきかを基本から問いなおし、具体的な対象に即して考察を試みた記録の一端です。古語辞典を改訂する作業の副産物ですから、結果的には、そういう作業の台所を公開することにもなるでしょう。」……「はしがき」より

「……本書から受けた衝撃は誠に大きかった。しかも小松氏の論法はきわめて正統的であるし、決して珍奇な史料を用いている訳でもない。そして氏が述べるように、まだ問題は未曾有に残されていると思う。
 今後、全てを引き受ける覚悟をもって、作品の読み直しに向かう学究が出ることを願う。現在の状況ではもう手遅れかも知れないが、かえって現行の注釈書にあきたらない人たちが、本書から多大な啓示を受け、研究を進展させられるのではないか、そんな淡い期待を抱くのである。」……「解説」(小川剛生)より

本書は講談社学術文庫版(1990年刊)に、あらたに解説を付して刊行するものです。


著者

小松英雄(こまつ・ひでお)
出生 1929年、東京。
筑波大学名誉教授。文学博士。

著書
日本声調史論考(風間書房・1971)
国語史学基礎論(笠間書院・1973:増訂版 1986:簡装版 2006)
いろはうた——日本語史へのいざない(中公新書 558・1979:講談社学術文庫・2009)
日本語の世界7〔日本語の音韻〕(中央公論社・1981)
仮名文の原理(笠間書院・1988)
やまとうた——古今和歌集の言語ゲーム(講談社・1994)
仮名文の構文原理(笠間書院・1997:増補版 2003:増補版新装版 2012)
日本語書記史原論(笠間書院・1998:補訂版 2000:新装版 2006)
日本語はなぜ変化するか——母語としての日本語の歴史(笠間書院・1999:新装版 2013)
古典和歌解読——和歌表現はどのように深化したか(笠間書院・2000:増補版 2012)
日本語の歴史——青信号はなぜアオなのか(笠間書院・2001:新装版 2013)
みそひと文字の抒情詩——古今和歌集の和歌表現を解きほぐす(笠間書院・2004:新装版 2012)
古典再入門——『土左日記』を入りぐちにして(笠間書院・2006)
丁寧に読む古典(笠間書院・2008)
伊勢物語の表現を掘り起こす——《あづまくだり》の起承転結(笠間書院・2010)
平安古筆を読み解く——散らし書きの再発見(二玄社・2011)
日本語を動的にとらえる——ことばは使い手が進化させる(笠間書院・2014)
土左日記を読みなおす——屈折した表現の理解のために(笠間書院・2018)

解説執筆

小川剛生(おがわ・たけお 慶應義塾大学文学部教授)

目次

はしがき——学術文庫版の刊行にあたって
謝辞

前言

文献学的解釈
虚心な読書
問題の設定と解決の方法
伝本の尊重
文献学
『徒然草』を選択する理由Ⅰ
『徒然草』を選択する理由Ⅱ
執筆方針と凡例

序章 文献学的解釈の基礎

導言
1 諸伝本の表記
作者の推定
成立年代の推定
『徒然草』の諸伝本
正徹本と光広本
伝本の異聞
本の対比
章段の区切り
陽明文庫本
意図的な書き改め
2 二種類の仮名遣
ものくるおし
「を」と「お」との関係
語頭以外のハ行子音
仮名表記のゆれ
藤原定家による仮名遣
仮名遣の効用
定家仮名遣
歴史的仮名遣
仮名遣の転換
仮名遣転換の危険性
3 清濁の識別
仮名の清濁
『日葡辞書』の清濁
清濁表示の基準
事実とその解釈

第一章 つれづれなるまゝに

導言
1 つれづれなるままに
ことばの含み
右一枚白紙徒然
「つれづれ」と「徒然」
「つれづれ」の含み
すっきりしない心
辞書の解説
呼吸段落
2 清むか濁るか
『日葡辞書』と「日くらし」
「日くらし」の意味
「日ヲ暮らしテ」の可能性
「ひくらし」か「ひぐらし」か
第三の解釈
思いつきと解釈
3 付かず離れずの関係
用例調査の手順
「日くらし」の用例
「日くらし」の「日」
「日くらし」の実質
4 語源信仰の危険性
「ものぐるほし」の成立
語源信仰
心にくし
「ものぐるひ」と「ものぐるほし」
其処は彼となく
帰納による理解
5 帰納される意味
「クルホシ」と「ものぐるほし」との分布
和文系に「くるほし」がない理由
用例に即した意味
6 母音交替形の意味領域
「ものぐるはし」の用法
文献による理解の限界
「ものぐるはし」の形成
7 兼好の真意
謙遜としての自嘲
『土佐日記』の場合
むすび
序段と第一段との続きかた

第二章 うしのつの文字

導言
1 謎を解いたのはだれか
はじめに
この謎は解けるか
誰が謎を解いたか
漢字としての解釈
片仮名としての解釈
2 文字習得の過程
片仮名の和歌
仮名はまだ書き給はざりければ
片仮名と仮名
仮名習得の過程
手習のはじめ
3 「こいしく」の必然性
見立ての動機
作歌の動機
4 牛の角文字
「こいしく」か「こひしく」か
音韻変化と仮名表記との関係
定家による仮名遣と定家仮名遣
安易な思弁の矛盾
5 すぐな文字
「すぐな」という語形
姫君の「いときなさ」
6 謎ときの筋道
「ゆがむ」の意味の再規定
なぞときの条件
7 かわいらしさの抹殺
こいしく思ひ参らせ給ふと也
付 かたかんなの和歌
片仮名の和歌の再吟味
まつ我にくし
掛詞の可能性
音韻史的説明の限界
「まつ我にくし」への書き換え
マツワレニクシ
まつわれにくし
伝本の尊重

第三章 土偏に候ふ

導言
1 文字史からの検討
従来の解釈
通説の崩壊
根を張った通説
批判の姿勢
「塩」以外の「しほ」
2 場面の理解
表現に即した理解
会話文
玄人と素人
質問は陥穽だったのか
3 有房の意図
話の筋道
篤成の発言意図
字書と本草書
有房の発言意図
「文字」の意味
4 いづれのへんにか侍らん
「偏」以外の「へん」
質問の趣旨
「辺」の可能性
書籍の部立てとしての「篇」
本草書の「篇」
5 質問と解答とのすれ違い
挿話のキー・ポイント
誤解の可能性
曲解の可能性
二つの可能性の共通点
「才」の意味
誹謗は不当だったか
「まづ」の意味
つなぎ
6 自筆原本の表記
作者自筆本の表記
「篇」両義性
7 中間のまとめ
底本の表記による拘束
誤解の誘因
漢字と仮名との互換性の限界
8 どよみになりて
皮相な解釈
新しい説明
「どよみ」か「とよみ」か
9 兼好の意図
挿話のモラール
前段との関連
補 「イヅレヘン」
【追記】

第四章 蜷といふ貝

導言
1 極端な異文
二つの系統
蜷むすび
従来の解釈
「みな」と「にな」
2 蜷といふ貝
蜷といふ貝
読み分けはありえたか
解釈の枝わかれ
正しい解釈
3 文献資料にみえる「蜷」Ⅰ
「蜷」の語形の跡づけ
上代の語形
平安時代の語形
『新撰字鏡』の和訓
『和名類聚抄』の和訓
『色葉字類抄』の和訓
改変本『類聚名義抄』の和訓
声点の機能
4 文献資料にみえる「蜷」Ⅱ
『日葡辞書』にみえる語形
中世の辞書類にみえる語形
辞書類に基づく調査
調査のまとめ
「蜷」と「みなむすび」との乖離
5 兼好の意図
乖離の理由
正誤判定の基準
6 漢字表記の必然性
漢字表記の理由
視覚的な理解
表意文字としての感じ
仮名による書き換え
7 異文成立の理由
甲系統か乙系統か
書き換えの理由
伝本の評価
兼好の主張
8 兼好の軌範意識
客観的な軌範
矛盾する二つの軌範
9 語形変化の動因
個別的変化の動因
術語による規定
対の形成
変化の筋道
もう一つの帰結

第五章 いみじき秀句

導言
1 秀句の所在
問題の所在
「いみじ」の意味
どうして「いみじき秀句」なのか
秀句は「ほうし」に?
「ほうし」という表記
諸伝本の表記
唯一の仮名表記
「火憂し」という解釈
2 法師は「法の師」か
名言としての秀句
「法師」の用例Ⅰ
「法師」の用例Ⅱ
『枕草子』の「法師」との距離
3 法師とよばれない僧侶たち
「法師」と「僧」
複合語の「法師」
寺法師の円伊僧正
「寺法師」の変質
4 惟継と円伊との人間関係
「同宿」の関係
二人の関係
『平家物語』の「同宿」
「御坊」「御房」
他の文献の「御坊」「御房」
ぞんざいなよびかけ
5 いみじき秀句
よびかけとしての「寺法師」
二つの「寺」
「いみじ」という評価
6 方法上の諸問題
「法師」と「亡寺」
偽構の危険性

結語
引用文献

解説(小川剛生)