明治初期理科教科書の近代漢語 
中川重麗『博物学階梯』にみる実態 
[影印・翻刻・索引付] 
安部清哉 編著

2021年2月28日発行
定価:8,250円(10%税込)
A5判・上製・口絵2頁+408頁
ISBN:978-4-909832-35-1

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内容紹介著者紹介目次

NAKAGAWA Shigeaki (中川重麗)’s Science Textbook “Hakubutsu-gaku Kaitei”(『博物学階梯』)and Sino-Japanese Words in the Early Meiji Era


幕末・近代の漢語・翻訳語研究のための重要資料

近代日本語が確立していく時代、明治初期の「教科書」類は、近代語の資料群として重要な位置を占めている。
中川重麗が、ドイツ書より翻訳・翻案した理科教科書『小学読本 博物学階梯』(明治10年)と『同 字引』への文献研究と徹底した語彙調査により、漢語語基が新しい意味を獲得していく一端を探る。

「……近代の理科教科書の中から、中川重麗編纂の『博物学階梯』を取り上げてみようと思うのは、その刊行の時期的な早さという点と、中川の翻案本教科書を含む教科書執筆経歴にある。この『博物学階梯』シリーズは、後述のように改正版も併せて複数種刊行されており、それらの中で当時の最先端とも言える理科学用語や理科教授上の教育用語が、「ゆれ」を見せたり交替したりしながら変遷していく様が見出されるからでもある。」——第I部第2章より

安部清哉(あべ・せいや)編者
日本語学(日本語史)・方言学、文学修士(東北大学)。語彙論・語彙史研究、方言史研究、資料研究を中心に、日本語の史的研究を行っている。
東北大学大学院文学研究科博士後期課程所要単位取得済中退。
その後、東北大学文学部助手、フェリス女学院大学教授を経て、現在、学習院大学文学部教授(2003年より)。

略業績(論文は略す)
『論究日本近代語 第1集』、共著2020勉誠出版
『中世の語彙<シリーズ日本語の語彙3>』、編著2020朝倉書店
『日本語の音(日本語ライブラリー)』、共著2017朝倉書店
『日本古典対照分類語彙表』、共編2014笠間書院
『品詞別学校文法講座 第二巻 名詞・代名詞』、共著2014明治書院
『語彙史(シリーズ日本語史)』、共編著2009岩波書店
『方言の形成(シリーズ方言学1)』、共著2008岩波書店

伊藤真梨子(いとう・まりこ)
日本語学専攻、日本語日本文学修士(学習院大学大学院)。日本語の語彙論・語彙史研究。近年は主に近代の漢語語彙を中心としている。
学習院大学文学部日本語日本文学科卒業、学習院大学大学院人文科学研究科日本語日本文学専攻博士前期課程修了。
2020年3月迄、国立国語研究所技術補佐員、国際基督教大学(ICU)教養学部日本語教育課程非常勤講師、学習院大学基礎教養科目「日本語表現法」非常勤講師。
2020年3月、下記の台湾の機関の日本語教師に内定、渡航直前に新型コロナウイルスのため日本に待機指示となる。
現在、台湾(新竹市)・財団法人中華民国対外貿易発展協会国際人才培訓中心 日語教師(2020年6月着任)。

論文
「近代の「特徴」と「特長」――同音類義語の意味侵食――」『東洋文化研究』22、2020.3
「語基「特」を含む漢語の幕末・近代における拡大」『人文』17、2019.3
「『改正増補 博物学階梯教授本』(1880)の語彙」『学習院大学国語国文学会誌』62、2019.3
「近代漢語「開化」「半開」「未開」小考」『学習院大学大学院日本語日本文学』14、2018.3
「『今昔物語集』訓釈語彙考――巻26注釈書訓釈異同表を利用した語義比較(ツツヤク・クジル)――」『人文』6、安部清哉との共著2008.3

渡辺陽子(わたなべ・ようこ)
日本語教育学専攻、日本語日本文学修士(学習院大学大学院)。外国人留学生等に向けて遠隔教育による日本語教育、また、日本語研究では主に近代の語彙と資料の史的研究を行っている。
玉川大学文学部リベラルアーツ学科卒業、学習院大学大学院人文科学研究科日本語日本文学専攻博士前期課程修了。
2021年1月迄、学習院大学国際センター専門嘱託、東海大学国際教育センター留学生支援教育部門非常勤講師。
現在、三重大学国際交流センター特任講師(教育担当)

論文
「明治理科教科書執筆者としての「中川重麗」事績:明治20年まで」『東洋文化研究』22、安部清哉との共著2020.3
「「生」と「活」を造語成分とし共通語基をもつ近代的類義二字漢語――「生計―活計」「生気―活気」等10組――」『学習院大学人文科学論集』28、2019.10
「明治初期の新聞の日本語――明治7年『郵便報知新聞』を中心に――」『玉川大学リベラルアーツ学部研究紀要』11、中村聡との共著2018.3
「テレビ会議システムを利用した日本語授業の可能性――そのメディア特性を活かした方策として――」『玉川大学学術研究所紀要』20、宮田聖子・遠藤裕子・渡辺・大矢恵美での共著2015.3

蓮井理恵(はすい・りえ)
日本語学専攻、日本語日本文学修士(学習院大学大学院)。日本語の語彙研究、文体研究。主に近代の語彙と資料の史的研究を行っている。
学習院大学文学部日本語日本文学科日本語教育系卒業、学習院大学大学院人文科学研究科日本語日本文学専攻博士前期課程修了。
現在、公益財団法人日本国際教育支援協会(JEES)専門員。

論文
「中川重麗著『博物学階梯』の諸本と構成(読本・教授本・字解)」『東洋文化研究』22、安部清哉との共著2020.3
「近代漢語「自然物」「天然物」「天産物」「天造物」類の変遷と意味分析」『人文』17、2019.3
「動詞・副詞・形容語の「和語対非和語語種比率」(RJF)による現代日本語文体の計量的比較考察」『学習院大学国語国文学会誌』57、2014.3
「動詞・形容詞・副詞における語種比率(RJF)を用いた文体分析――公人のスピーチ・「天声人語」・女性ファッション誌記事を事例に――」『学習院大学大学院日本語日本文学』10、2014.3

第Ⅰ部 中川重麗『小学読本 博物学階梯』諸本と近代漢語

第1章 はじめに――近代日本語と漢語――……安部清哉

第2章 中川重麗『博物学階梯』シリーズ6冊と近代日本語……安部清哉

1. はじめに――近代日本語と明治期理科教科書群
2. 中川重麗『博物学階梯』6冊と『万有七科 理学』全5巻
3. 『博物学階梯』デジタルアーカイブスと明治10年版の2種
4. 本書の構成
5. 課題――中川重麗の語彙習得背景

第3章 明治理科教科書執筆者としての「中川重麗」事績(明治20年まで)……渡辺陽子・安部清哉

1. はじめに
2. 先行研究と本章における中川重麗経歴の区分
3. 中川の科学知識の源を探る――ドイツ語と中川重麗
4. 中川重麗の経歴――明治20年まで
4.1 【I期】嘉永3-明治7(1850-1874)武芸と詩文からドイツ語へ
4.2 【II期】明治8-明治16(1875-1883)京都府職員から教師へ
4.3 【III期】明治17-明治20(1884-1889)教育からジャーナリズムへ
5. 理科教科書執筆者としての中川重麗年表
6. まとめ

第4章 中川重麗『博物学階梯』の諸本と構成(読本・教授本・字解)……蓮井理恵・安部清哉

1. はじめに
2. 『博物学階梯』の時代背景
2.1 『博物学階梯』と同時期の近代教科書の時代背景
2.2 「博物学」の学術的背景
3. 中川重麗と『博物学階梯』について
4. 『博物学階梯』の表題等の構成
4.1 『博物学階梯』四書の原本画像
4.1.1 AT:『小学読本 博物学階梯』(明治10年)
4.1.2 AM:『小学読本 博物学階梯教授本』(明治11年)
4.1.3 BT:『小学読本 改正博物学階梯』(明治12年)
4.1.4 BM:『改正増補 博物学階梯教授本』(明治13年)
4.2 『博物学階梯』四書の書誌情報の比較
5.『博物学階梯』の内容構成
5.1 書全体の構成
5.1.1 AT:『小学読本 博物学階梯』(明治10年)
5.1.2 AM:『小学読本 博物学階梯教授本』(明治11年)
5.1.3 BT:『小学読本 改正博物学階梯』(明治12年)
5.1.4 BM:『改正増補 博物学階梯教授本』(明治13年)
5.1.5 四書の構成比較
5.2 各書の内容構成
5.2.1 「礦物概論」
5.2.2 「植物概論」
5.2.3 「動物概論」
6. 本文の四書比較
7. まとめ

第5章 シュドレル“Das Buch der Natur”と中川重麗『博物学階梯』の図の関係……蓮井理恵

1. 中川重麗『博物学階梯』とシュドレル“Das Buch der Natur”
2. “Das Buch der Natur”.
3. 『小学読本 博物学階梯』と“Das Buch der Natur”の図の相違
4. まとめ

第6章 『博物学階梯』および中川重麗論文「唯物論一斑」の近代漢語……蓮井理恵・安部清哉

1. 『博物学階梯』と中川(1885)「唯物論一斑」
2. 中川重麗漢語語彙と近代漢語の一面
3. 中川重麗漢語語彙の諸相(『博物学階梯』・「唯物論一斑」より)

第7章 『博物学階梯』明治10年版と明治12年版の漢語比較(漢語異同語彙比較表)……安部清哉

1. 明治10年版と明治12年版とでの漢語表現の異同
2. 明治10年版と明治12年版との比較事例
2.1 10年版に漢語熟語がなく12年版で漢語が使用された事例
2.2 より新しい翻訳的漢語訳語を12年版で採用している事例
3. 『博物学階梯』明治10年版と明治12年版の漢語異同語彙比較表

第8章 『改正増補 博物学階梯教授本』(明治13年)の語彙――中川重麗の語彙習得――……伊藤真梨子

1. はじめに
2. 「燃焼」関係語彙
3. 『米欧回覧実記』に見られる語
3.1 「塩分」
3.2 「尖鋭」「鋭尖」
4. 当時最新の理科用語
5. まとめ

第9章 翻訳漢語「機力」と“mechanical power”――現代語に専門用語として残る近代理科教科書語彙――……伊藤真梨子

1. はじめに
2. 近世までの「機力」の意味・用法
3. 明治以降の「機力」の意味・用法
4. 近代の翻訳語としての「機力」
5. まとめ

第10章 漢語語基の近代的変質……安部清哉

1. はじめに
2. 語基の意味的変化と派生の事例――「電」「館」
2.1 「電」と「電気」――自然現象から科学現象へ:electricityの派生
2.2 漢語語基「館」――「個」(個人)から「公」(公共・公衆)の時代へ
3. 漢語語基の近代的変化傾向
3.1 意味的変化の傾向=広義の西洋的近代化
3.2 漢語語基の新意味獲得の語彙的・語構成的パタン
3.3 変化の時期と段階
4. 漢語語基の個別用法の史的研究の構想
5. 漢語研究における語基研究の課題

参考文献(関連文献)一覧
人名索引
書名索引
語句索引

第II部 資料編 『小学読本 博物学階梯』 『小学読本 博物学階梯字引』[影印・翻刻・索引]

第1章 『博物学階梯』(明治10年)漢語・外来語索引……安部清哉・伊藤真梨子

第2章 『博物学階梯』(明治10年)巻末語彙表索引……安部清哉

第3章 『博物学階梯字引』(明治11年)語彙索引……安部清哉

第4章 『博物学階梯』(明治10年)翻刻……安部清哉(伊藤真梨子・蓮井理恵・渡辺陽子協力)

第5章 『博物学階梯』(明治10年)影印 安部清哉架蔵

第6章 『博物学階梯字引』(明治11年)影印・翻刻……安部清哉

 

あとがき
執筆者紹介