戦争下の文学者たち
『萬葉集』と生きた歌人・詩人・小説家
小松靖彦 著

2021年11月15日発行
定価:3,520円(10%税込)
A5判・並製カバー装・320頁
ISBN:978-4-909832-46-7

試し読み 
 各種オンライン書店での購入

内容紹介著者紹介目次

当時〈文学〉には何が可能だったか。
可能でなかったのか。

与謝野晶子よさのあきこ)、齋藤瀏(さいとうりゅう、半田良平(はんだりょうへい、今井邦子(いまいくにこ、北園克衛(きたぞのかつえ、高木卓(たかぎたく──6人の文学者たちの文学的営為を丹念に追跡。
文学にとって今、なにが問題か、『萬葉集』と戦争の親和性から考える。
戦争の連鎖を断ち切るために──われわれ自身の日常を問い直す。

「実際に彼らの〈愛国〉の感情は一時的な方便ではなく、深い根を持ったものであった。六人の文学者たちは、知性と〈愛国〉の感情の間をそれぞれに揺れ動きながら、戦争の時代を生きた。……本書では、それぞれの文学者にできる限り寄り添いながら、その理由を解きほぐしてゆきたい。……彼らを性急に戦争加担者として告発することはしない。むしろ、なぜ彼らがこのような道を辿ったのかを冷静に解明することこそが、世界各地で戦争がなおも続く今の時代に必要とされていることだと考える。6人の文学者たちの軌跡を通じて、近代社会における戦争の圧倒的な圧力と、その中での〈文学〉の可能性と不可能性を見つめてゆきたい。」(「序章」より)

英文要旨〈Summary〉

小松 靖彦(こまつ・やすひこ)

1961年生まれ。東京大学文学部卒業。東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。
青山学院大学教授。博士(文学)。

著書に、『萬葉学史の研究』(おうふう、上代文学会賞、全国大学国語国文学会賞受賞)、『万葉集 隠された歴史のメッセージ』(角川選書)、『万葉集と日本人 読み継がれる千二百年の歴史』(角川選書、古代歴史文化賞受賞)など。

https://manyogakushi122.wixsite.com/mysite

序章 〈戦争下の文学者たち〉というテーマ

戦争とは何か/近代社会と戦争/なぜ『萬葉集』か/「萬葉集の歌の洪水と氾濫」/知性と「愛国」の間で/六人の文学者たち

第1章 与謝野晶子──〈自由〉と〈愛国心〉

一 与謝野晶子の「愛国短歌」
『大東亜戦争 愛国詩歌集』の晶子の歌/二首の初出と評価/「愛国短歌」の問題
二 与謝野晶子と『萬葉集』
晶子の愛読書であった『萬葉集』/伝統主義論争/晶子の「伝統主義」批判/世界的人類的視野
三 「日支親善」の理想
「石井・ランシング協定」と晶子/晶子の〈中国〉へのまなざし/〈中国〉の資本家と「軍閥」への関心
四 上海事変という転機
〈中国〉に対する見方の変化/上海事変/「紅顔の死」の問題点
五 〈愛国心〉と天皇に対する崇敬
為政者の弾劾/「君民一体」という原理/「愛国短歌」への道

第2章 齋藤瀏──二・二六事件の影

一 落魄の歌
激烈な国家主義的活動/歌集『慟哭』
二 齋藤瀏と『萬葉集』
心の軌跡を示す『萬葉集』の鑑賞書/『萬葉名歌鑑賞』の〈方法〉/〈鑑賞〉の劇的変化
三 日中戦争の勃発
日中戦争の衝撃/二・二六事件/瀏と栗原安秀
四 青年将校の「志」を継ぐ
生き残った者の「義務」/瀏の決意
五 齊藤瀏の「新体制運動」
「栗原安秀」のめざしたものの継承/「高度国防国家体制」と文芸
六 齋藤瀏の「責」の負い方
「勝つ」ことへのこだわり/「責」を負う

第3章 半田良平──戦争下の知性と〈愛国心〉

一 戦争下の防人像との距離
「国民精神」/「尽忠」の防人像/良平の解釈
二 半田良平と『萬葉集』
上流貴族社会の産物としての『萬葉集』/古代の官僚の阿りの歌
三 半田良平の短歌観と『萬葉集』
良平の短歌観/「流動的なリズム」による〈鑑賞〉
四 半田良平の知的バックグラウンド
東京帝国大学文科大学英吉利文学科/美学への関心
五 良平の知識人としてのスタンス
社会的弱者へのエンパシー/良平の芸術観
六 〈時事歌〉の制作
米騒動/作り続けられた〈時事歌〉/理性と感情
七 戦争下の半田良平の〈時事歌〉と日記
戦争に関わる〈時事歌〉/空爆下の『萬葉集』研究
八 半田良平の〈愛国心〉
戦意高揚の記事が見えない日記/「草莽の臣」/良平の〈愛国心〉

第4章 今井邦子──「小さきこと」「かすかなもの」へのまなざしと戦争

一 今井邦子と時代
苛烈な生涯
二 戦争の本質に迫る歌
戦争に対する鋭い視点/言論統制を受けなかった『鏡光』の歌
三 今井邦子と『萬葉集』
『萬葉集』との出合い/心を清めるものとしての『萬葉集』
四 今井邦子の〈鑑賞〉
苦しみに満ちた〈今現在〉/『萬葉集』の人々の人生の「哀れ」/『萬葉集』の〈鑑賞〉と歌集『鏡光』
五 「いのち」の浄化
「家」への「忌避と愛惜」/〈述懐歌〉を歌い続ける
六 今井邦子のまなざし
他者の「いのち」へのエンパシー/「小さきこと」「かすかなもの」
七 今井邦子の「愛国短歌」
他者へのエンパシーと「愛国短歌」/「小さきこと」「かすかなもの」と「愛国短歌」
八 今井邦子の戦争賛美の歌
「乱雲」における戦争賛美/天皇への崇敬と「国」の意識

第5章 北園克衛──「郷土詩」と戦争

一 北園克衛と戦争
前衛詩人・北園克衛と戦争
二 北園克衛の「愛国詩」
詩「冬」をめぐって/北園の〈愛国心〉と戦争賛美
三 北園克衛と『萬葉集』
「思考の造形的把握」/『萬葉集』の本質の直覚的把握/矛盾に満ちた『萬葉集』の受容
四 「郷土詩」とは何か
生涯をかけた「実験」/「郷土詩」の定義(1)─「原始的単純性」/「郷土詩」の定義(2)─「倫理」と「像」
五 北園克衛の「郷土」
大日本帝国政府の「郷土」政策/新文化創造のための「郷土」/瞑想の内部の「郷土」
六 「郷土詩」という詩形
「郷土詩」の形式/「郷土詩」としての「野」の特徴
七 北園克衛の戦争との向き合い方
二つの「民族の伝統」/「郷土詩」としての「愛国詩」の問題点/矛盾に満ちた戦争との向き合い方

第6章 高木卓──〈歴史小説〉という細き道

一 高木卓の文学活動
高木卓という文学者・芸術家/「歌と門の盾」をめぐる問題点
二 「歌と門の盾」について
「歌と門の盾」の制作事情/「歌と門の盾」の梗概
三 「歌と門の盾」と芥川賞
「芥川賞受賞作」となった経緯/評議員たちが指摘した「問題点」
四 「歌と門の盾」の特徴
プロットと登場人物の特徴/〈語り手〉の位置と文体の特徴
五 高木卓の〈歴史小説〉の理念と理論
高木の〈歴史小説〉/「詩的真実」の追求/「現在相応」の理論/主役としての時間・空間/『萬葉集』との一回的出合い
六 高木卓の「偽装」
「歌と門の盾」における「偽装」/「国策」に対する高木の姿勢
七 児童向け史話・物語の問題
『安南ものがたり』と「大東亜共栄圏」/天皇に対する忠義心

終章 〈報国〉という誘惑

西洋体験を通して得た批評精神/知性的な『萬葉集』受容/六人にとっての転換点/「孤忠」ではなかった〈愛国心〉/〈報国〉という誘惑

あとがき/依拠したテキスト/参考文献/文学者肖像出典一覧/英文要旨