古代和歌の構造
様式が紡ぐ表現史
萩野了子 著
2025年5月15日発行
定価:9,900円(10%税込)
A5判・上製・368頁
ISBN:978-4-909832-71-9
古代人がもつ表現に対する意識を明らかにする
万葉集から平安初期の和歌にかけて、序詞、縁語、掛詞の表現やその変遷を分析し、古代における修辞意識の具体像を示す。
上代文献に描かれる生と死、夢、禁忌や俗信などについても考察し、作品の中で背負う機能から、当時の人々の言葉や概念に対する意識の問題に迫る。
万葉集、古今集、後撰集、拾遺集を対象にした「序詞一覧」を収載。
修辞の発生や展開、そして応用、衰退には、時には個人の、時には歌集の、時には時代や文化の、あらゆる位相における意識の問題が関わってくるように思われる。よって、万葉集から平安初期和歌にかけた序詞、縁語、掛詞などの表現やその変遷などの分析によって、古代和歌における修辞意識という不明暸なものを形あるものにし、表現史の具体的な問題として提示することも可能ではないかと考える。万葉集と、古今集を中心とした平安初期和歌との比較からそれを導く手法を、一つのモデルとして示すことが本書の意義である。——「序章 第一節 本書の意義」
萩野 了子(はぎの りょうこ)
平成17年、学習院大学文学部日本語日本文学科卒業。
平成26年、東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。
平成29年、東京大学より博士(文学)の学位を受ける。
現在、白百合女子大学専任講師。
凡例
序章
第一節 本書の意義
第二節 研究史と本書の立場
一 枕詞と序詞の混淆
二 序詞の分類の方法
三 掛詞をめぐる諸問題
第三節 本書の構成と各章の位置づけ
第一章 序詞の構造分析と表現性
第一節 古今和歌集の序詞
一 受け継がれゆく修辞
二 序詞の構成要素
三 物象の優位性について
四 万葉集序歌における心物両叙述の関係
五 古今集序歌の心物の結束力
六 同音異義的掛詞による連結
七 古今集序歌と六歌仙二重文脈歌
八 「古」歌と「今」歌
第二節 心物対応構造の変質と序詞
一 心物対応構造の変質
二 初期万葉序歌の作為的構成
三 人麻呂序歌の功績
四 寄物陳思歌及び巻十における序詞表現
五 鄙の地で詠う序歌
六 揺らぎ始めた物象の力
七 古今集への道筋
第三節 同音反復式序詞にみる表現の変遷
一 同音反復式序詞とは何か
二 序詞の変遷
三 表象性を抱える物象
四 古今集の序詞表現
五 同音反復式序詞における「古」と「今」
六 後撰集から浮かび上がる古今集の採歌基準
七 同音反復式序詞に求められる当代性
第四節 同音反復式序詞の手法——地名反復と地名連鎖をめぐって
一 地名を反復する序詞の表現性
二 地名反復の序詞と地名に連鎖する序詞——万葉集
三 地名反復の序詞——古今集
四 地名に連鎖する序詞——古今集
五 序詞の構造に見る地名の作用
第五節 序詞形式を支える知のありよう——平安初期和歌を中心に
一 〈地名重畳型序詞〉について
二 万葉集に見る表現様式
三 平安初期の晴の歌、褻の歌
四 古今和歌六帖歌の検討
五 叙述性の有無と連結方法の関係
六 歌らしさとは何か
七 新しい世界の地名表現
第二章 修辞技法としての掛詞の展開
第一節 万葉集の掛詞
一 掛詞の萌芽
二 音の連鎖という様式
三 万葉集における含蓄型掛詞
四 譬喩歌の分析
五 縁語群と掛詞
第二節 掛詞の表現構造
一 修辞技法としての掛詞
二 序詞から掛詞へ
三 掛詞式序詞の成立
四 譬喩歌の二系対比構造
五 漢字表記と寓喩表現
六 平安期の掛詞表現
七 修辞成立の契機
第三節 古今和歌集巻十の演出する物名歌
一 物名技法のルーツ
二 誹諧歌の特徴
三 物名歌が詠まれる場
四 巻十所収歌の作歌の経緯
五 古今集が作り上げる物名のイメージ
六 巻十という舞台
第三章 様式に導かれる作品理解
第一節 袖返しと夢
一 袖を返す人々
二 「袖返し」の目的
三 俗信の成り立ち
四 「袖返し」が再現するもの
五 独り寝の型
六 「袖返し」と夢
七 恋歌の様式から見る「袖返し」表現
第二節 ホトを負傷する女神
一 箸墓伝承の特異性
二 ホトの損傷
三 女陰の力
四 羞せられ怒る女神
五 古代死生観の一面——箸墓伝承から
第三節 記紀にみる死の意味
一 日本神話における死の描写
二 女神が分泌するもの
三 「屎」について
四 大地母神の役割
五 「穢」によって繋がる生と死
第四節 風土記伝承が語る禁忌——「知る」ことの意義
一 風土記に求められた機能
二 今に続く禁忌伝承
三 「知らぬ」ではすまされない——交通妨害神
四 窟の怪
五 安定した統治を導く禁忌伝承
資料篇 序詞一覧(万葉集/古今集/後撰集/拾遺集)
初出一覧
あとがき
索引(歌番号/人名・事項)