よみがえる与謝野晶子の源氏物語
神野藤昭夫 著
2022年7月20日初版第1刷発行
2022年11月10日初版第3刷発行
定価 4,180円(10%税込)
A5判・並製・口絵8頁+482頁
ISBN:978-4-909832-58-0
〈近代初の現代語訳〉誕生の裏側
『新訳源氏物語』と『新新訳源氏物語』——晶子の生涯を貫いた「源氏」に賭ける情熱の軌跡!
翻訳はどのようにして完成したのか。
新資料の数々をもとに訳業の具体像を明らかにする。
没後80年記念出版
「……晶子の教養の中核となったものはなにか。それは、幼いころからつちかわれた古典力である。それは、たんなる知識の集積ではなく、古典世界の経験をみずからを支える今日的見識へと汲み上げ、変換する力であって、それこそが、与謝野晶子を大〈文〉学者へと育てる活動の源になったといえよう。晶子の生涯にわたる古典翻訳、なかでも『源氏物語』の訳業は、その象徴的顕現である。本書は、それが、どのようなもので、どのようにしてなしとげられたか、これを明らかにしようとするものである。」——「はじめに」より
神野藤 昭夫(かんのとう・あきお)
1943年 東京都文京区生まれ
都立小石川高等学校
早稲田大学第一文学部
早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了 博士(文学)
跡見学園女子大学名誉教授 北京日本学研究センター、国文学研究資料館、放送大学の客員教授、早稲田大学、お茶の水女子大学、京都大学・聖心女子大学・駒澤大学・青山学院大学・日本大学・山東大学(中国)の各兼任講師を歴任。またNHKラジオ第二放送(古典講読)、NHK教育テレビ(古典への講師)などの講師をつとめた。
著書に『散逸した物語世界と物語史』(若草書房 第21回角川源義賞)、『知られざる王朝物語』の発見─物語山脈を眺望する』(笠間書院)、『中世王朝物語を学ぶ人のために』(世界思想社 共編著)、『新編伊勢物語』(おうふう 共編著)、『越境する雅楽文化』(書肆フローラ 共編著)、『中世王朝物語全集 八重葎・別本八重葎』(笠間書院)ほかがある。また『竹取物語』『伊勢物語』『更級日記』『堤中納言物語』『今昔物語集』の各講義CD(NHKサービスセンター・ソニーミュージックハウス)がある。
はじめに
序章 晶子の『源氏物語』翻訳をめぐる旅の始まり
1 荻窪の旧居跡に立って
2 新たな翻訳文学として登場した『新訳源氏物語』
第一章 幻の『源氏物語講義』の復原
1 幻の晶子の「源氏の本」
2 小林天眠と天佑社構想
3 寛の天眠への助言とみずからの感懐
4 天眠の晶子への原稿依頼
5 幻の『源氏物語講義』依頼の内実
6『源氏物語講義』はいかに書き進められたか
7 天佑社の旗あげに間に合わなかった原稿
8 天佑社の営業方針との軋轢
9 経済恐慌と天佑社の閉鎖
10 幻となった『源氏物語講義』
11『源氏物語講義』の原稿一枚が残った事情
12 幻の『源氏物語講義』の原稿一枚
13 幻の『源氏物語講義』の解読とその価値
14『新訳源氏物語』と『新新訳源氏物語』の「薄雲」巻の一節
15 幻の『源氏物語講義』の記録後記
第二章 晶子の〈源氏力〉をつちかったもの
1 テキストが読者を育てること
2a『源氏物語』体験 円地文子の場合
2b『源氏物語』体験 樋口一葉の場合
3 晶子の『源氏物語』体験
〔コラム〕兄鳳秀太郎のこと
4『源氏物語』耽溺が生んだ晶子の歌
5 晶子を鍛えた『源氏』体験の場
6『伊勢物語』輪読
7『源氏物語』会読
8『源氏』を講ずるひとに─閨秀文学会のこと
9 晶子の講義風景をさぐる─「手の上の氷」のこと
10 寛と晶子の苦境─『明星』の終焉へ
11 窮状の資となる『源氏物語』講義 与謝野氏毎週講演のこと
12 晶子が親しんだテキストはなにか
〔コラム〕『(絵入)源氏物語』大本・横本・小本のこと
13 鞍馬寺所蔵の晶子旧蔵『源氏物語』(絵入源氏物語)の現態
〔コラム〕果報は寝て待て─鞍馬寺蔵『絵入源氏物語』(与謝野晶子旧截)現態由来
果報の訪れ/冬柏亭炎上の危機/晶子旧蔵『絵入源氏物語』のこと/晶子の源氏体験の原点の書である可能性/余聞
第三章 読者の心を鷲摑みにした『新訳源氏物語』とパリ体験
1『新訳源氏物語』の出現と普及
〔コラム〕『新訳源氏物語』二つの系列で異なる本文
2『新訳源氏物語』はこうして始まった
〔コラム〕内田魯庵の進言と〈翻訳〉の意味するもの
3『新訳源氏物語』はどう書き進められたか
〔コラム〕百首屏風のこと
4『新訳源氏物語』の執筆の推移
5『新訳源氏物語』中巻と晶子の渡欧
〔コラム〕古尾谷鐵太郎のこと
6『新訳源氏物語』下巻の刊行
7『新訳源氏物語』の縮訳量の量的な検討
8『新訳』の量的拡大の謎
〔コラム〕多忙であった日々
9 梗概書の系譜と『新訳源氏物語』の位相
10 晶子は『源氏物語』の和歌をどう歌いかえたか
11 晶子の渡欧と『新訳源氏物語』
12a 寛と晶子のパリ滞在の拠点
12b モンマルトルの宿の人びと
12c「巴里に於ける第一印象」と晶子の欧州体験
13 ロダンとの邂逅そして再び『新訳源氏物語』へ
第四章 畢生の訳業『新新訳源氏物語』はどのように生まれ流布したか
1『新新訳源氏物語』完成祝賀会の日
2 池田亀鑑、晶子に会う。その翌日晶子倒れる
3『新新訳源氏物語』は、いつどのような事情から書き始められたか
〔コラム〕底流する内的動機の存在
4『新新訳源氏物語』の危機
5 非凡閣版『現代語訳源氏物語 中』の事情
〔コラム〕非凡閣『現代語訳国文学全集』の出版企画
6 縮訳だった晶子の非凡閣版『現代語訳源氏物語 中』
7『現代語訳源氏物語 中』はどう評価できるか
8 金尾種次郎との再会と『新新訳源氏物語』の再開
9『新新訳源氏物語』の刊行
10『新新訳源氏物語』の完成の日まで
11 晶子の『新新訳源氏物語』自筆原稿の存在
〔コラム〕晶子自筆原稿『新新訳源氏物語』デジタルデータへのアクセス方法
12 晶子自筆「玉鬘」の一枚を解読する
13 晶子自筆「花散里」の一枚を解読する
14『新新訳源氏物語』の和歌の秘密
15「玉鬘」巻の和歌省筆と依拠テキストとの関係
16 晶子が朗読した「桐壺」巻冒頭のレコードとそのテキストの問題
17『新新訳源氏物語』の和歌本文の問題
18『新新訳源氏物語』は河内本を利用したか
〔コラム〕河内本と河内本待望熱のこと
19 謎の書き加えられていた『全訳源氏物語』「柏木」巻巻末
20『新新訳源氏物語』の流布と本文
21 晶子の『新新訳源氏物語』の個性と魅力はどのようなものか
─空穂・潤一郎・ウェイリー・晶子
終章 旅の終わりに
年表
図版一覧
本書関連著作一覧
索引
■『古代文学研究 第二次』第32号(2023年10月)に書評掲載されました。
【評者 久保堅一氏】
「本書は、実に多くの資料の蒐集や分析によって晶子の訳業を深く理解しようとつとめ、同時に、読者を楽しませながらその魅力を真摯に伝えようとする熱意に貫かれた好著である。」
■『国文学研究』第199集(早稲田大学国文学会、2023年11月)に書評掲載されました。
【評者 田坂憲二氏】
「内容の変化に関しては、本文を厳密に吟味してデータを積み上げ、本文と訳文の比率の変化を究明し、原典和歌の訳出方法が数種類の類型に分かれることなどを析出する。実証主義を持ち味とする著者らしい見事な結論である。」
■『現代短歌』2023年11月/99号に書評掲載されました。
【評者 鷺沢朱理氏】(第4回BR賞 佳作「私の恩師は紫式部である。——《晶子源氏》のDNA」)
「夫の寛の活動や夫妻の子らの証言、森鷗外や上田敏ら文豪の協力、実業家小林天眠の支援、なかんずくフランス滞在中の、彫刻家ロダンとの邂逅による芸術熱の高揚が重視される。」
■「日本文学」2023年3月号に書評掲載されました。
【評者 田坂憲二氏】
「……貴重な資料や、考察が、本書のあちこちにさりげなく配置されているのである。穏やかな語り口とは裏腹に、地道な蒐集や調査の膨大な累積がその背後に隠されている実に手強い本であると言わねばならない。」
■読売新聞に書評掲載されました(2022年10月30日付)。
【評者 梅内美華子氏】
「まさに源氏訳の開拓者だと納得する一冊である。」
■『与謝野晶子の世界』第22号(与謝野晶子倶楽部発行、2022年10月)で紹介されました。
【紹介者 足立匡敏氏】
「「すました学術書」ではなく、晶子の訳業を訪ねる「ふとした出会いや縁」に満ちた「旅の記」なのである。」
■『日本古書通信』2022年9月号で紹介されました。
「与謝野晶子の生涯にわたる古典翻訳、なかでも『源氏物語』の訳業は、その象徴的顕現である。本書は、それがどのようなもので、どのようになしとげられたか、これを明らかにする。」
■朝日新聞読書面に掲載されました(2022年9月3日付)。
【評者 澤田瞳子氏】
「著者の資料分析や考証を読者が共に追いかける記述は、学術書という定義を越え、上質な推理小説を読むに似た興奮を与える。」
■日本経済新聞読書面「あとがきのあと」(インタビュー記事)に掲載されました(2022年9月3日付)。
「3度の現代語訳の謎に迫る」
■毎日新聞書評欄「今週の本棚」に掲載されました(2022年8月27日付)。
【評者 持田叙子氏】
「読んで書いて稼ぐ晶子のタフネスを追う」
■『うた新聞』8月号で紹介されました。
【内藤明氏「短歌想望」】
「晶子の生涯を貫く『源氏物語』との関わりと、『源氏物語』千年の受容の歴史を交差させた労作であり、緻密な論文であるとともに興味深い読み物となっている。」