尼ヶ﨑彬セレクション 1
利休の黒 美の思想史
尼ヶ﨑彬 著
2022年7月30日発行
定価 2,970円(10%税込)
四六判・上製・320頁
ISBN:978-4-909832-61-0
第1回配本
「茶の湯」はどのようなものとして形成されてきたのか。
「仏教の無常」「老荘の脱俗」「和歌の伝統」——さまざまな視点から、日本の美を表してきた事象や人物を縦横無尽に掘り下げ、美の思想史として体系づけた待望の書き下ろし。
千利休生誕500年記念出版!
「……岡倉天心は、東洋の諸理想が極東の日本に流入して西洋とは異なる文明を作ったとし、その代表として茶道を語った。……(本書は)彼の問題意識を引き継いで、茶道を生み出した背景となる日本文化の歴史を調べ、時代と共に変わるその理想を調べてみたものである。するとたしかに天心の言う通り……利休のとき茶の湯の理想は一つの究極に達したようにみえる。そこで本書の調査は古代から始まり利休の章で終る。」(「あとがき」より)
【シリーズラインナップ】
2 花鳥の使 歌の道の詩学 *既刊
3 日本のレトリック
4 ことばと身体
尼ヶ﨑 彬(あまがさき・あきら)
1947 年愛媛県生まれ。
東京大学大学院人文科学研究科博士課程中退(美学芸術学専攻)。
東京大学助手、学習院女子短期大学助教授を経て2017 年まで同女子大学教授。
美学、舞踊学。
著書に、『花鳥の使』(勁草書房、1983年)、『日本のレトリック』(筑摩書房、1988年)、『ことばと身体』(勁草書房、1990年)『縁の美学』(勁草書房、1995年)、『ダンス・クリティーク』(勁草書房、2004年)、『近代詩の誕生』(大修館書店、2011年)、『いきと風流』(大修館書店、2017年)など。
序 「生の術」としての茶道
第一章 日本の奇妙な文化 宣教師の見た「茶の湯」
1 ロドリゲスの『日本教会史』
2 秩序の基礎としての身分制度
3 宴会の幸福
4 「茶の湯」という特殊な招宴
5 隠者と名物
6 「数寄」の目的
7 ロドリゲスの見た日本文化と茶の湯
第二章 「茶の湯」前史 遊宴と貴賤
1 雅俗と遊宴
2 遊宴の中の茶
3 勝負の興奮
4 機知の遊びとしての連歌
5 礼法と無礼講
6 「会所」という自由空間
第三章 婆娑羅と闘茶 「雅」から「数寄」へ
1 闘茶の登場
2 「婆娑羅」—豪華絢爛の風流—
3 闘茶の理想—『喫茶往来』の茶会と茶人—
4 歌の数寄と茶の数寄
第四章 『山上宗二記』のストーリー 秘伝と禅
1 茶の湯の起源
2 貴賤同座と名物所持
3 茶人の分類
4 珠光一紙目録
5 茶の湯の様式の変化—数寄の流行—
6 義政と珠光
7 禅の影響
8 『山上宗二記』とは何か
第五章 珠光の美意識 「雲間の月」と「藁屋に名馬」
1 雲間の月
2 見える花から見えない花へ—長明の「秋の夕暮」—
3 身に沁む「あはれ」—兼好の大路—
4 「萎れたる」風情—世阿弥の花—
5 「花」は散らねばならない—心敬の無常—
6 「冷え」という美意識
7 「藁屋に名馬」
第六章 都市の隠者 「侘び」と「中隠」
1 「侘び」の源流その一—配流の生活—
2 「侘び」の源流その二—閑居の自適—
3 「侘び」の源流その三—「空」と「無常」—
4 出世間の思想—山中への遁世と市中の隠者—
5 珠光の継承—宗珠—
第七章 紹鷗の開眼 「不変」と「随縁」
1 紹鷗の眼
2 『詠歌大概』という秘伝
3 宗祇の解釈
4 本歌取という唯一の方法
5 定家の本歌取
6 不変の「心」と新しい「情」
7 「心付」と「寄合」
8 世界を見る眼
9 不変と随縁
10 ただ一つの道具
第八章 秀吉のかき回し 茶の湯と政治
1 信長の手柄—政治のための茶の湯—
2 秀吉の創意
3 山里丸
4 大徳寺大茶湯
5 禁中茶会
6 北野大茶湯
第九章 茶道具の誕生と変容 「飾り」と「見立て」
1 雅俗と茶の湯
2 茶の湯の道具と飾り
3 発見された茶道具—「見立て」という創造—
4 茶道具の価値
5 「見立て」の逆転
6 藁屋と名馬
7 墨跡の登場
第十章 利休の黒
1 利休の史料
2 利休と道具
3 新しい「雅俗」—「贅沢な貧弱」と「軽薄」—
4 「こび」と「異風」
5 利休の理想
終章 その後とこれから
1 利休没後の茶道
2 文化としての茶と酒
3 茶の文化のゆくえ
あとがき/引用文献/参考文献/登場人物略記
■毎日新聞書評欄「今週の本棚」に掲載されました(2022年8月13日付)。
【評者 三浦雅士氏】
「名著である。半世紀前、小林秀雄の『無常という事』や唐木順三の『千利休』『無常』が青年必読の名著とされたが、いまやそれに代わるものが登場したという印象だ。」
■「美学 262号」(2023年)に書評掲載されました。
(美学会:https://www.bigakukai.jp)
【評者 佐々木健一氏】
「一読、これが傑作であることを確信した。以下、その所以を語りたい。この著作の主題は、「茶の湯」がどのような過程を経て、どのようなものとして形成されたかの解明にあり、「利休の黒」はその尖鋭な到達点である。別の記述もできる。本書は日本の「美の思想史」であり、茶の湯の形成はそのピークをなしている。」