新訳 紫式部日記
島内景二 著
2022年2月28日発行
定価:2,640円(10%税込)
四六判・並製・552頁
ISBN:978-4-909832-52-8
『源氏物語』の作者は、どのような現実を生きていたのか。
確かな研究に導かれた大胆にして繊細な訳で、紫式部の心の奥を照らし出す。
藤原道長・中宮彰子に仕えた華やかな宮廷生活の裏に潜むものとは……『紫式部日記』の世界へようこそ。
「私は、文学的な意味での「新訳」に挑戦したかった。すなわち、「批評としての古典訳」の可能性を開拓したかったのである。これまでの日本文化を踏まえ、新しい日本文化を切り開く、そういう「新訳」が必要だと思い続けてきた。
『紫式部日記』の本文は「群書類従本」とした。江戸時代後期から昭和四十年くらいまでの人々は、これを読んできた。「『紫式部日記』の近代」は、この群書類従本である。」(本書より一部抜粋)
【好評既刊】
新訳蜻蛉日記上巻(定価1,980円、2021年5月刊)
新訳更級日記(定価1,980円、2020年3月刊)
新訳和泉式部日記(定価1,870円、2020年10月刊)
1955年長崎県生
東京大学文学部卒業、東京大学大学院修了。博士(文学)
現在 電気通信大学名誉教授
2020年4月から、NHKラジオ第2 古典講読「王朝日記の世界」を担当。
主要著書
『王朝日記の魅力』『新訳 蜻蛉日記上巻』
『新訳 和泉式部日記』
『新訳 更級日記』
『和歌の黄昏 短歌の夜明け』(いずれも、花鳥社)、
『塚本邦雄』『竹山広』(コレクション日本歌人選、笠間書院)
『源氏物語の影響史』『柳沢吉保と江戸の夢』『心訳・鳥の空音』(いずれも、笠間書院)、
『北村季吟』『三島由紀夫』(共に、ミネルヴァ書房)
、『源氏物語に学ぶ十三の知恵』(NHK出版)
、『大和魂の精神史』『光源氏の人間関係』(共に、ウェッジ)
、『文豪の古典力』『中島敦「山月記伝説」の真実』(共に、文春新書)、
『源氏物語ものがたり』(新潮新書)、
『御伽草子の精神史』『源氏物語の話型学』『日本文学の眺望』(いずれも、ぺりかん社)
、歌集『夢の遺伝子』(短歌研究社)、
『楽しみながら学ぶ作歌文法・上下』(短歌研究社)、
『短歌の話型学 新たなる読みを求めて』『小説の話型学 高橋たか子と塚本邦雄』(共に、書肆季節社)
はじめに……紫式部と『紫式部日記』への誘い
Ⅰ 日記(寛弘五年・一〇〇八年)
0 原文にはない、語り手の前口上
1 土御門邸の季節は秋から始まった
2 中宮のお産を女房と僧侶が見守る
3 道長が紫式部に女郎花を差し出す
4 頼通もまた女郎花を話題にする
5 碁盤に凝縮している王朝の雅び
6 公卿たちの宿直が始まる
7 昼寝する女房は、どんな夢を見る
8 重陽の菊を道長夫人から賜る
9 中宮の陣痛が始まる
10 次々に現れる物の怪を退散させる
11 御帳台の四囲に人々は犇めく
12 九月十一日、長いお産の一日が始まった
13 中宮のお産を見守る女房たち
14 「後ろの細道」は誰も通れない
15 敦成親王、誕生される
16 女房たちの化粧は崩れていた
17 物の怪たちは、中宮と道長の幸福を阻止しようとした
18 朝日のような男皇子が生誕された
19 直ちに祝宴の準備が始まる
20 公卿たち、それぞれの喜び
21 一条天皇より親王の守り刀が贈られる
22 臍の緒を切る
23 御湯殿の儀の支度、整う
24 若宮、御湯殿に向かう
25 いささかの笑いを添えて
26 女房たちを冷静に観察する
27 若宮の三日の御産養が催される
28 若宮の五日の御産養が催される
29 陪膳の八人の女房の心の中を覗いてみると
30 とにかく大勢の女房や女官が動員されていた
31 夜居の僧都も驚くほどの盛儀だった
32 女房たちが頭を悩ませる酒宴が始まる
33 若い男女が月下の舟遊びに興じる
34 若宮の七日の御産養が催される
35 ようやく白い装束を改める
36 若宮の九日の御産養が催される
37 若宮の尿に濡れた道長は喜んだ
38 具平親王と道長と紫式部
39 水鳥の足搔きに、紫式部は自分の心の藻搔きを見た
40 時雨は、生きることの寂寥を顕在化させる
41 一条天皇、土御門邸に行幸される
42 駕輿丁は苦しげに体をよじっていた
43 帝の行幸には三種の神器も一緒である
44 晴れの日の女房たちの着こなし、人さまざま
45 大勢の中で優劣を見分ける方法はあるか
46 ちょっとした天女
47 天皇、若宮、そして道長の三位一体
48 雅楽の調べが土御門邸を満たす
49 老女と若い女房の溝は深い
50 土御門邸に響く万歳・千秋の声
51 行幸に伴って多くの人々が栄進した
52 新しい宮家の人事に紫式部の一族は漏れた
53 紫式部は殿方の役職次第で対応を変える
54 若宮の五十日の祝いが催される
55 若宮の餅は道長が食べさせた
56 紫式部が恐れていた酒宴が始まる
57 酔った右大臣を、能吏の斉信がなだめる
58 紫式部、右大将実資と会話を交わす
59 藤原公任から「若紫」と呼びかけられる
60 紫式部と道長が和歌を詠み合う
61 酔った道長は夫人と娘に語りかけた
62 『源氏物語 』の冊子を作る
63 若宮の成長
64 『源氏物語 』を書き始めた頃の思い出を少しばかり
65 『源氏物語 』を書いていた時の友や恩人は離れていった
66 孤独な紫式部は、大納言の君に歌を贈った
67 中宮彰子は優しいが、倫子は棘がある
68 中宮が御所に戻る日、最悪の女房と相乗りさせられる
69 一条院に何とか落ちついた紫式部
70 道長が中宮彰子に贈ったのは歌書だった
71 五節の舞姫の準備が始まる
72 舞姫たちは気詰まりであるように紫式部には見えた
73 舞姫四人それぞれの介添え役の女房たちの月旦
74 二日目には淵酔と、御前の試みが催された
75 一条院に犇めく男と女
76 卯の日に童女御覧が催される
77 紫式部は、童女たちと自分とを引き比べた
78 紫式部は、老女をいたぶる先頭に立った
79 舞姫が去った宮中の寂しさ
80 明子の生んだ道長の息子たちに紫式部は冷淡だった
81 祭の前夜、御所の風紀はいささか乱れていた
82 老女をいじめたことに意外な反響があった
83 老いた名人の哀れさを紫式部は嘆いた
84 歳暮に絶唱を詠む
85 大晦日の夜、御所で怪事件が発生した
Ⅱ 日記(寛弘六年・一〇〇九年)
86 寛弘六年の元日は、凶日だった
87 宰相の君の人となり
88 再び、大納言の君の人となり
89 宣旨の君の人となり
Ⅲ ある人に宛てた手紙(消息文)
90 日記から遠く離れて
91 もう一人の「宰相の君」
92 小少将の君は「女三の宮」そっくりの人
93 宮の内侍は欠点のない女性である
94 宮の内侍の妹が、式部の御許
95 若い女房から二人ほど
96 若い女房の火遊び
97 宮木の侍従の突然の出家を惜しむ
98 五節の弁の髪に秘められた養父の悲劇
99 今では宮仕えを辞めている小馬
100 中宮付きの女房たちへの批評を終えるに当たって
101 紫式部は弟の恋人の手紙を読み、公憤に駆られた
102 静謐な環境の斎院と、騒然とした宮中との違い
103 中宮の文化サロンは、確かに地味ではある
104 中宮彰子には、忘れられない幼児体験があった
105 中宮が笛吹けど踊らぬ、女房たちの引っ込み思案
106 「人の心」を持った女房が少ないのは認めよう
107 具体例を挙げながら熱弁を振るう紫式部
108 斎院の中将の君からの批判への批判を、ここで終わらせる
109 紫式部が和泉式部を斬る
110 紫式部は赤染衛門には手心を加えた
111 紫式部は不倶戴天の敵・清少納言を斬れたのか
112 ここから、自己批評へ
113 紫式部の肖像画は、この場面から描かれた
114 人間には二つのタイプがあり、両者は水と油である
115 紫式部は、仮面をかぶり続けていた
116 あるべき女性論、あるべき女房論
117 自分を憎む人を、憎み返してもよいのか
118 「日本紀の御局」という悪口を言いふらされる
119 父親を落胆させた愚弟惟規の思い出
120 『白氏文集』を進講させた中宮彰子と「政道読み」
121 出家に踏み切る勇気が無い紫式部
122 長かった評論的書簡文が、ここで終わった
Ⅳ 日記(寛弘七年・一〇一〇年)
123 まずは、土御門邸の持仏堂の思い出から
124 持仏堂に残った人々と、池に舟で漕ぎ出す人々
125 『白氏文集』「海漫漫」の思い出
126 『源氏物語』の思い出も少々、道長も添えて
127 夜の訪問者は道長だった
128 寛弘七年正月の記録
129 御薬の儀が行われる
130 三歳と二歳の年子の宮たちは可愛らしかった
131 道長は紫式部の父親も気に掛けていた
132 道長の言葉を女房仲間と称え合う
133 道長、紫式部、小少将の君の三角関係は起きるか
134 敦良親王の五十日の祝い
135 宰相の君、若い女房の装束の色合いを批判する
136 餅を含ませる儀が終わる
137 宴会と遊びの準備がなされる
138 管絃の遊び、そして突然の擱筆
139 群書類従本の奥書
あとがき