軍記物語講座の始発◆シリーズ企画会議を公開

7. 書名について

松尾 書名については後日ご相談したいのでよろしく。本日はどうもありがとうございました。

(2018年11月5日から9日にかけて、メールで、シリーズ名と書名について議論がなされました。以下は決定までのやりとりです。)
松尾 さて、そろそろ書名を決めなくてはなりません。シリーズ名は、シンプルに「軍記物語講座」としようかと考えています。たった4冊ですからシンプルな方がいいし、講座と銘打つと継続購読して貰えるので。
 各巻の書名ですが、例えば以下のような案を考えています。御意見をお聞かせ下さい。御提案があればぜひお願いします。
 1 『武者の世が始まる』(初期軍記・保元平治物語・承久記収載)
 2 『無常の鐘声―平家物語』
 3 『平和の世への希求―太平記』または『平和の世は来るか―太平記』
 4 『室町の世から見た武者たち』(曽我物語・義経記・室町軍記収載)

小秋元 タイトルは「平和の世は来るか」がよいのではないでしょうか。『太平記』も第三部になってくると、作者がどこまで平和を希求しているのか、怪しいところで、「平和の世への希求」といってしまうと、ちょっと大げさな感じがするためです。作者あるいは当時の人々が抱いた「先の見えなさ」を表すうえで、疑問形のタイトルは適していると思います。

松尾 第3巻の書名について、じつは私も疑問形にしたいのですが、皆さんは如何お考えですか?

北村 シリーズ名は確かに「講座」がよいと存じます。各巻のタイトルですが、名詞で終わるものと動詞で終わるものが混在しているよりも、ある程度の統一感をもたせた方がよいのではないでしょうか。例えば、第2巻を「無常の鐘声が響く」「無常の鐘声を聞く」にして、第4巻を「室町の世から武者たちを見る」にするか、あるいは逆に、第1巻を「武者の世の始まり」にするなど。
 肝心の第3巻ですが、個人的な好みとして申し上げますと、「平和」と「太平(記)」の二語がやや重畳的のように感じられます。もちろん一般読者をも念頭に置いているということで、あえて現代ふうの「平和」を用いる効果は承知しておりますが、ここは、「祇園精舎」の本文をすくい取った第2巻の例にならって、北野通夜の「かかる乱るる世もまた鎮まることもや」を使用するのはいかがでしょう。名詞で終わるなら「乱世の行方」。動詞(疑問形)で終わるなら「乱世は鎮(静)まるのか」「乱世に幕は下りるのか」。

松尾 以下のようでは如何でしょうか。第4巻の命名には未だ悩んでいますが……
 1 『武者の世が始まる』(初期軍記・保元平治物語・承久記収載)
 2 『無常の鐘を聞く―平家物語』
 3 『平和の世は来るか―太平記』または『乱世はいつ終わるのか―太平記』
 4 『室町の世から武者を見る』(曽我物語・義経記・室町軍記収載)
あまり長いと背文字が打てない(書店に並んだ時、ぱっと人目を捉えにくい)ので、10字前後にしたいのです。第2巻など、ほんとうは「無常の鐘を聞きながら―平家物語」としたかったのですが。「乱世」という語は第4巻の方が本番ですよね。第3巻は「中夏無為の世―太平記」と考えてみたりしたのですが。

和田 私も、「軍記物語講座」がいいと思います。第3巻の書名は悩むところですが、「平和の世は来るか」が穏当かなという気になりました。たしかに、最後の一文があるのに戦乱が続いているというタイトルにすると、疑問をもたれるかもしれません。

松尾 第4巻は下記のどちらかでは如何でしょう?
 4『乱世を語りつぐ』
  または『室町という武者の世』
版元は体言止め・用言止めが混在しても構わない、というので、第2巻は『無常の鐘声―平家物語』でいきたいと思います。
第3巻ですが、第4巻との兼ね合いもあり、以下のうち皆様はどれを推奨されますか?
 3『平和の世は来るか―太平記』
  または『動乱はやまず―太平記』
  または『やまぬ動乱―太平記』

北村 第4巻は「乱世を語りつぐ」がよいかと存じます。
義経記と曽我物語を含むのであれば、「室町」では誤解されやすいと思うからです。
第3巻ですが、「動乱はやまず」「やまぬ動乱」の場合、「中夏無為の世になりて目出たかりし…」に矛盾しないでしょうか。歴史的事実はさて置くとして、作品はあくまでも太平実現を語るわけですし。
ということで、「平和の世は来るか」に1票を投じます。
平和と太平の併用は若干気になるものの、これならば、序文や北野通夜物語の精神を体現しているという感じがします。

松尾 では編者からは以下のような原案で、版元に提案したいと思います(第1巻・第4巻の所収作品名をどう表示するかは懸案です)。
 シリーズ名:軍記物語講座
 第1巻 『武者の世が始まる』
 第2巻 『無常の鐘声―平家物語』
 第3巻 『平和の世は来るか―太平記』
 第4巻 『乱世を語りつぐ』

(以上により、「軍記物語講座」として各巻の書名も固まりました。刊行に向けて鋭意準備を進めているところです。)


【出席者紹介】
小秋元 段(こあきもと・だん)法政大学文学部教授
最近の業績:
『増補太平記と古活字版の時代』(新典社、2018年)
「神田本『太平記』の表記に関する覚書―片仮名・平仮名混用と濁点使用を中心に―」(『『太平記』をとらえる』第3巻、笠間書院、2016年)
「『源平盛衰記』と『太平記』―説話引用のあり方をめぐって―」(『文化現象としての源平盛衰記』笠間書院、2015年)

北村 昌幸(きたむら・まさゆき)関西学院大学文学部教授
最近の業績:
『太平記世界の形象』(塙書房、2010年)
「『太平記』の引歌表現とその出典」(『『太平記』をとらえる』第1巻、笠間書院、2014年)
「いくさの舞台と叙景歌表現」(『中世文学』第63号、2018年6月)

和田 琢磨(わだ・たくま)早稲田大学文学学術院准教授
最近の業績:
『太平記 生成と表現世界』(新典社、2015年)
「乱世を彩る独断ー『太平記』の天皇たち」(『東洋通信』63-6、2017年2月)
「『大館持房行状』に見る五山僧の『太平記』受容ー『太平記』を利用した家伝の作成ー」(『季刊 悠久』151号、2017年11月)

松尾 葦江(まつお・あしえ)
最近の業績:
『軍記物語原論』(笠間書院、2008年)
「長門切からわかること—平家物語成立論・諸本論の新展開—」(『國學院雑誌』118巻5号、2017年5月)
「諸本論から文学史へ—多様性の時代の代表文学—」(『季刊 悠久』151号、2017年11月)